だが、他人を支配することを愛や親密さと取り違えた人の考えを改めることはなかなか難しそうだ。人の心や行動を動かすにはどうすればよいのだろう。
信田さんは、「誉めること」がキーを握ると言う。たとえ誉める部分がまるでないような人に対しても、わずかな良い点を誉めることが、相手に考え方を変えさせる突破口になるという。さらに、カウンセリングでは相談者との間に「境界」を保つことが、よい関係を取りもつ秘訣だとも話す。仕事でのコミュニケーションでも活かせそうな話だが、その実はどうだろうか。引き続き信田さんにうかがった。
−−前編では、愛の名のもとに、支配と暴力が家庭内で起きてしまうメカニズムについて話をしていただきました。理想の家族や夫婦像を抱くと、あるべき正しい姿を基準に判断しがちになります。それが暴力を誘発する原因にもなるのではないかと思います。
信田:DV(ドメスティック・バイオレンス:家庭内暴力)加害者の論理は、見事に「愛と思え、受け入れろ」です。加害者の夫の話を黙って聞いていたら、「おっしゃる通り。それができない妻がやっぱり変なのでは」と、思いそうになるくらい正論なのです。
信田さよ子(のぶた・さよこ) 1946年生まれ。臨床心理士。原宿カウンセリングセンター所長。お茶の水女子大学大学院修士課程修了。駒木野病院、嗜癖問題臨床研究所付属原宿相談室を経て1995年に原宿カウンセリングセンターを開設。各種の依存症やドメスティック・バイオレンス、子どもの虐待などに悩む本人や家族へのカウンセリングを行う。著書に『母が重くてたまらない 墓守娘の嘆き』(春秋社)、『加害者は変われるか』(ちくま書房)『家族収容所』(講談社)、『愛しすぎる家族が壊れるとき』(岩波書店)など多数。
でも、待てよと思うのは、夫は常に「どちらが正しいか」を問題にしているからです。「正しいのは俺で、おまえの言い分は正しくない」といったように、家庭で常に“裁判”を行っている。
そういう環境で育つ子どもは、生き延びるために「勉強さえしていたらいい」という正論を実行します。それだけは絶対に親から批判されない正しい行為だからです。成績のいい子は、いつも裁かれるだけの家族の中で、勉強という安全地帯をもうけて、生き延びていくのです。
−−親密さや愛が家族同士の保つべき距離を失わせてしまうなら、何をもって家族を運用すればいいのでしょうか?
信田:思いやりです。それは他者性によって生まれます。家族といえども別の人間なのですから。日本の家族は気遣いばかりを女性に要求しますが、親切な思いやりは少ないのです。
「叱られて伸びる」は後で誉めるから
−−晩婚化が進み、また経済力の問題から結婚を避ける若者も増える傾向にあるようです。そういう状況を踏まえると、従来の家族の価値観は変わると思いますか?
信田:経済の停滞を考えると、夫婦はともに働き、子どもを生んだら保育園に預ける。そういうことなしに、家族は形成できないでしょう。
経済力の不足から結婚を避ける男性がいるなら、「男は女房、子どもを養ってなんぼ」という親世代の価値観に囚われているだけです。
でも、いまの30代の男性には、妻の経済力も込みで考えて結婚する人はけっこういますし、だから育児にも積極的に関わります。
昔みたいにふんぞり返っていたらやっていけない。善悪は別にして、新しい家族の形が生まれてくると思います。
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