「あのう、私にも、いつかオジサンをかわいいって思える日が来るんでしょうか?」
社会人一年目・24歳・色白・小柄・童顔なイシカワさんは、真剣なまなざしで私にそう訴えかけるのです。

♪来〜る! きっと来〜る!!
と、頭の中では白装束の女がブラウン管からこちらへ這って出てくるシーンが速やかにリプレイされましたが、しかし、その根拠がない。なんでオジサンってかわいいんだ? いや待て本当にかわいいか? わからない。ゆえに黙るしかない。沈黙に切り込んでまた彼女は言います。
「女性の上司が男性のオジサンに『かわいい』って言うんですけど、その気持ちがわからない。私、会社でのんびりしているオジサンたちを見ると、がっかりしてしまうんです」
がっかりしてしまうその気持ちは、少しわかる気がします。
「だって、会社なのに、子どもの話と仕事の愚痴しか言わないんですよ。たまに仕事の話をすると、『もう自分たちの時代は終わった。あとは若い人に任せよう』なんて」
ああ、それはちょっと、駆け出しキャリア・ガールには辛い。
「それに、ランチになると、『サトちゃんも誘ってあげよう!』なんて言って、別のフロアの同僚に電話してるんです」
仲良きことは美しき哉。(c)武者小路実篤。
「どうしてあんな風になっちゃうんですか?」
そんな姿見たくない、話は聞きたくないってあなたの気持ち、わかる。
わかるわかるって、いい顔しやがってって?
すみません、性分なもので。
ちょっと前に知人に言われた言葉が脳裏の荒野を駆け巡る。
「日経ビジネスオンラインであんなこと書いて、ただ自分がモテたいだけなんじゃないの?」
えーと、全否定はしません。
「女を敵に回すよ」
そうかなあ。
敵・味方って決めなくてもいいじゃないの。私は男が好きだけど、女を嫌いなわけじゃないし。
はたして社会人一年生・イシカワさんのお父様は私の父と同じように、黙々と働くタイプの父親でした。
「家で仕事の話は絶対しないし、もちろん愚痴なんて言わない」
我が父も、愚痴は言っていなかったように記憶しています。
「すべて投げだしちゃってるオジサンたちだけじゃないんです。ウチの部長って、一見、俺についてこいタイプなんですけど、自分の責任で進めたプロジェクトが失敗したとたん、出社は遅くなるわ退社は早くなるわ、短い職場滞在時間はずーっと暗い顔して、ときどき口を開いたと思ったら愚痴ばっかりで。もうイイ年なんだから、そのくらいの失敗、乗り越えられるはずじゃないですか。何であんなに打たれ弱いんでしょう。死ぬわけじゃないのに」
男らしい人ほど、仕事でコケると辛い。
それが人生の大半だから、自分が否定されたような気になってしまうのよ。
いつか、とてもストンと腑に落ちることを聞きました。
「男は仕事で失敗すると、自信を失う。女は女友達とこじれて絶縁に至ると、自信を失う」
男性にとって失業はとても怖くて辛いもの、女性にとって女友達がゼロという状態は同じくらいとても怖くて辛いもの、と言い換えてもいいかも知れません。
全部が全部そうという話ではないです。傾向がある、という程度です。
そういう意味のことをざっくりとイシカワさんに伝えると、「ああ、そうなんですかね」と言うものの、納得はしていない様子。可愛らしい顔には「でも」と書いてある。
ねえねえ、ところで、イシカワさんの職場って、実はとても働きやすいんじゃない?
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