アンジーは美人か――?
アンジェリーナ・ジョリーのことである。私はずっとそんなことを考えている。
多くの人が美人だと答えるに違いない。たぶんそうだと思う。
あるアングルからの彼女はとても魅惑的で美しいのだが、別の角度から見ると美人と呼べるほどじゃないなぁと思える彼女もいて、私はとても好きなのだ。どこか万華鏡のようなところのある女優なのである。
演技についても同じことは言えて、さすがオスカー俳優ジョン・ボイトの血を引くだけあって引き込まれるような演技が多く見られる一方で、こういう表情しかできないのだろうかと思うようなベタな演技もする。どこか万華鏡のようなところのある女優なのだ。
もしかしたら、それが昨今の流行りなのか。と思ったりもする。
たとえば「エントラップメント」でショーン・コネリーと共演したキャサリン・ゼタ=ジョーンズや「M:I-2」でトム・クルーズと共演のタンディ・ニュートンなどの演技でも感じたことなのだが、鉄壁の防犯装置で制御された電子式の金庫から機密書類を盗み出したとき、あるいはお得意の武芸で襲いかかる敵をのしたとき、彼女たちの表情はこう言っている。いかがかしら、あたしの腕前は、と。
そうした表情が私にはどうにも同じに見えて、和解した親子共演で話題になった「トゥームレイダー」や「Mr.& Mrs.スミス」のアンジーもやはり得意げな目線で、あたしもまんざらじゃないでしょ、と妖しげな微笑みを振りまくのである。生半通ながらご意見申し上げると、それが“いい女”の演出だったらとてもベタ。かなりベタ。流行りなのか……?
アンジェリーナ・ジョリーという女優は、ベタな演技と目を見張るような演技とが同居していてとても面白いのだ。アクション映画への出演が多かったからかもしれないが。
しかし、いい女優さんだ。今回は、そのアンジーがとびっきりの“いい女”に見える最高の映画を。2003年制作の「BEYOND BORDERS〜すべては愛のために〜」です。
* * *
この映画は、3つの時代から構成されている。
最初の舞台は1984年、冬のロンドン。難民支援のための非営利組織“国際救済基金”設立20周年を祝うパーティー会場の場面から。
アンジー演じるサラ・ボーフォードは、基金設立者の御曹司に嫁いだ初々しい若奥さま役だ。画廊に勤務しているが、世間知らずのお嬢さまなのである。ボーフォード家の一員として主賓のテーブルに座る彼女は、肩を露出した純白のドレスに身を包んでとても素敵。ショートボブにした髪型も似合っている。
姉のシャーロットはアメリカのテレビ局に勤務する駆け出しリポーター。夢はトップリポーターになることだ。妹の結婚式に出られなかった彼女は、この日のパーティーにわざわざアメリカから駆けつけた。
しかし、私たちは映画ののっけから、美しいはずの世界の現実と、その表と裏を見させられるのだ。
ステージでは生バンドがロックを演奏し、会場はディスコと化している。踊っているのはタキシードとドレスをまとった若い紳士淑女たち。難民救済の記念パーティーで、裕福な人たちは豪華なセレモニーを楽しんでいるのだ。
そして式典が始まり、サラの夫ヘンリー・ボーフォードがマイクを握る。
「ご来場の皆さん、今宵は国際救済基金の会長、私の父の長年の働きを皆さんとともに労う会でもあります」
会場から拍手が起こる。黒人の子供の手を引いたコート姿の男が会場に乱入するのはそのときだ。
カメラマンのフラッシュが乱入者を包み込む。だが、男は動じない。サラのテーブルのシャンパンを無造作につかみ、会場を見渡して掲げてみせる。
「1000ポンドの会費を払って出された飯を食い、くっついて踊るだけか。貧民を救うために大いに飲もうじゃないか、乾杯だ」
そう言って男はボトルの中身をフロアーにぶちまけるのだ。
「会費の内訳はどうなってる? 会場代が20ポンド、飲み食いに30ポンド……、一人頭せいぜい50ポンドってところか。さぁジョージョー、受け取れ。これがきみの取り分だ」
男は、空になったボトルを連れてきた少年に手渡す。
そして、少年のコートを脱がせてランニング姿にする。少年の身体は痩せこけ、胸にはあばら骨が浮き出ている。会場の来客が、固唾を呑んで少年の身体を凝視する。
「紹介しておこう、この子はジョージョーだ。初めて会ったとき、彼は飢えていて自分の舌を食おうとしていた。紳士淑女の諸君に訊こう、きみたちは自分の舌を食ったことがあるか? あのときの彼は糞尿に浸かっているガイ骨も同然だった。それも我々の立派な糞とは違う、黄色の液体だ。2000人の子供がいまも同じ状況にあえいでいる。にもかかわらず、援助を打ち切られた。彼らに何を食わせるつもりだ? わんさと飛んでいるハエを食わせればいいのか」
男は、胸ポケットから書類を取り出して読み上げる。
「共産主義下にあるエチオピアの資金援助を中止する……、これはあんたが書いたんだろ」
その書類を、男は基金の設立者ボーフォード氏に突きつけるのだ。
「もういい、キャラハン博士。帰りたまえ」
男の名はニック・キャラハン。エチオピアの難民キャンプで救済活動を続ける医師だ。そして、ジョージョーはそのキャンプから連れてきた少年だ。
「子供たちを見捨てる理由を聞かせてくれ。浮いた金で新車を買うためか、それともカミさんの豊胸手術の費用がいるのか? 言えよ。3万人の難民キャンプでは日に40人が死んでいる。麻疹、チフス、コレラ……、あそこは伝染病の巣だ。援助を打ち切られれば、あと6週間で全員が死ぬ。どうした、何とか言ったらどうだ」
ニックの足元に一本のバナナが投げ入れられる。
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