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神と人とをつなぐもの~『白川静──漢字の世界観』 松岡正剛著(評:尹雄大)

平凡社新書、780円(税別)

2009年1月14日(水)

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白川静──漢字の世界観

白川静──漢字の世界観』 松岡正剛著、平凡社新書、780円(税別)

 昔日の学生運動盛んな折、多分にもれず、京都の立命館大学も全学封鎖されるにいたった。が、「S教授」の研究室だけは普段通り、深更に及んでもなお煌煌と明かりがついていたという。

「学生たちにはそのたった一つの部屋の窓明りが気になって仕方がない。(略)無言の、しかし確かに存在する学問の威厳を学生が感じてしまうからだ」

 作家で京大教授でもあった高橋和巳は、『わが解体』で当時の様子をこのように記している。

 漢字の研究を軸に東洋思想の根底を探求したS教授こと、白川静は、2000年に渡り定説となっていた漢字の字源解釈を覆した研究者である。今でこそ、その業績は「白川学」と呼ばれ賛辞されてもいるが、長らく無名に近い存在であった。

 世事をものともしない不覊独立のたゆまぬ歩みがつくり上げた学問領域は、民俗から詩歌、字書編纂と、およそ個人で成し遂げたとは思えないほど幅広く、さながら知の山脈を形成している。

 本著は白川の「巨大で精緻な、比類のない知性」や漢字観がいかに育まれたかを探る。著者の松岡正剛もまた、書評「千夜千冊」をものするなど博覧強記で知られる人物だ。白川山脈を踏破する上で格好のナビゲーターといえるだろう。

 著者はまず、白川の業績を述べるにあたり、私たちにとって漢字は「日常化された道具」であり「意識から遠のいた記号」に過ぎないといった認識を覆す作業から始める。漢字には象形文字という性格があるがゆえに、たとえば「人」という字は「支えあっている様子を表す」程度の表層的な理解に止まってしまう。

 だが象形文字は、見たままの形を表すだけではない。人がどういうふうに世界を見ていたか。それを象ったものだ。白川いわく「文字の背後に、文字以前の、はかり知れぬ悠遠なことばの時代の記憶が残されている」。

 著者はここにこそ「白川文字観の根本的な見方」があるとし、漢字には文字以前の〈人間が求めた構想や祈念や欲望や憎悪などすべての動向があらわれているはずだ〉という。

甲骨に刻まれたのは古代人の情念

 漢字の体系化は、紀元100年に許慎が著した「説文解字」にならうのが常だった。このテキストは、漢字の部首を540に分けるなど、あくまで「字形」による文字解釈であり、白川が登場するまで、〈正確に漢字の原形の意味を問うていくならば、そこには必ずやひとつの体系や一定の原理があきらかになるはずだ〉という見解はなかった。

 翻っていえば、白川の研究によって、漢字には人間の「構想や祈念や欲望や憎悪」といった、おどろおどろしい記憶が塗り込まれていることが明らかになったということだ。白川はいったい何を発見したのか。

 漢字はおよそ4000年前、中国・殷の時代に獣骨や亀の甲羅に刻まれた甲骨文字に始まり、青銅器に刻まれた金文へと発展していった。甲骨文字も金文も〈世界を実感させる最初の「力」〉を秘めていたという。白川はそれを「呪能」と呼んだ。

 呪能は呪いだけを意味しない。それは〈祝うこと、念じること、どこかへ行くこと、何かを探すこと、出来事がおこるだろうということ〉など、人が現実に働きかける際に抱く強い願いや思いを指す。

 甲骨文字に白川が呪能を見て取ったのは、それが「貞卜(ていぼく)」であったからだ。

 貞卜とは、占いのことだ。甲骨に傷をつけ、裏面から灼くことで主に縦方向に規則的に走るひびによって吉凶を占う。このとき、前もって占うべきことがら「貞辞」を甲骨に刻むのだが、これが「最初の呪能文字」「神聖文字」であり、5000種あまりが収集されている。

 現代人からすれば、貞卜や貞辞はたんなる迷信であり、非科学的であり、したがって呪能などは現代とは無縁の心性に思えるだろう。

 しかし、サイバネティックスの研究者であるベイトソンによれば、ガラスのように均質で純度の高い物質になればなるほど、その割れ方は予測不能だが、あらかじめ傷をつけておけば、おおよそ予測可能になるという。

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