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「参加して」こそ楽しめる。何が? 国宝が!~『日本の国宝、最初はこんな色だった』
小林泰三著(評:近藤正高)

光文社新書、1000円(税別)

  • 近藤 正高

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2009年1月15日(木)

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日本の国宝、最初はこんな色だった

日本の国宝、最初はこんな色だった』 小林泰三著、光文社新書、1000円(税別)

 昨年、東京国立博物館で開催された「対決──巨匠たちの日本美術」や「琳派展」といった日本美術の展覧会には、大勢の人が詰めかけていた。いずれの展覧会も、俵屋宗達の「風神雷神図屏風」と、それを模写した尾形光琳の同名の作を並べての展示が目玉だったのだが、僕も人波をかいくぐってやっとそれらを垣間見ることができた。

 どうやら“日本美術ブーム”ともいえそうな昨今、江戸時代以前の美術品と現代のマンガやアニメを結びつけて論じることも盛んだ。近年積極的に日本美術をとりあげている雑誌「ブルータス」でも、マンガ家・井上雄彦の特集号で、美術評論家の山下裕二が井上作品と日本美術の共通点を解説していた。

 本書でもまた、日本美術とマンガの共通点について言及されている。たとえば、平安時代の絵巻物「地獄草紙」の、赤い鶏の化け物が地獄へ堕ちた罪人たちに火を噴きかけている「鶏地獄」という場面。損傷が激しく、鶏以外はほとんど色が剥落してしまい、とりわけ罪人たちはすっかり不鮮明になっていた。

 この場面を復元したところ、何と、落下する罪人の髪が、上に向かってビュンとはねるように描かれているではないか。これを著者は「臨場感記号」と呼び、次のように説明する。

〈絵師は、臨場感を想起させる記号をいくつも仕掛けておく。「鶏地獄」の例だと髪の勢いである。同じビュンと走らせる描線だけれども、その長さや角度で速さが特定される。そのような臨場感記号を鑑賞者はとっさに読み取り、リアルな感覚を体感するのである。これは、まったく現代のマンガと同じではないか〉

 著者は日本美術のデジタル復元の第一人者だが、本書においては、デジタル復元の技術的な説明や苦労話よりも、著者自身の手がけてきた美術作品を奈良時代から時代順にとりあげながら、そこから「何が見えてくるか」を探ることのほうに重点が置かれている。

ガラスケース越しでは見えないもの

 そのためには、鑑賞法まで追究する必要がある。日本美術は本来、西洋美術のように壁にかけたり、ガラスケースに入れて鑑賞するようなものではない、と著者は言い切る。では、どんなふうに鑑賞するべきなのか。

 先述の「地獄草紙」は、復元により鮮やかによみがえったのはいいが、復元前の「ひっそりとした侘しさに結びついた怖さ」がなくなってしまった。どうやら平安時代の人たちは、この絵巻からまた違った雰囲気を感じ取っていたようだ。それは一体どのようなものだったのかを知りたい。

 ならば、当時の人びとが鑑賞したであろう環境をできるだけ再現してみるのがいい。著者は、復元データを本物と同じ寸法でプリントアウトし、それを暗闇でロウソクの灯を頼りに広げてみた。

 するとどうだろう、〈暗闇から立ち現れる地獄絵図は、すべてがロウソクの頼りない灯りに赤黒く染まって、ゆらゆらと揺れ始めたのである〉。じっと見ていると、絵に引き込まれていくように、いや、絵の世界がこちらを包み込んでくるように感じられたという。

 もちろん、当時の人たちが実際にこのように鑑賞していたかどうか、正確なところはわからない。というか、わかりようがないだろう。だがここで重要なのは、形はどうあれ、〈見る側が、作品を最大限に生かすために環境を整え、いろいろとしつらえた上で、美術の海に飛び込むという〉ことだ。

 著者はこのような鑑賞法を「参加する視線」と呼ぶ。これは本書全体を通して登場するキーワードだ。

 そもそも日本人にとって美術品は、ただ飾って見るものではなく、道具だったということが本書を読むとよくわかる。実際に手に取るなりして使うものだったからこそ、作品に「参加する」ことができるというわけだ。

 わかりやすい例としては、屏風絵がある。屏風は元来美術品ではなく生活用品だ。安土桃山時代より屏風絵や襖絵などを大量生産した狩野派を、著者は老舗のインテリアメーカーになぞらえているが、言いえて妙である。

 本書では、狩野永徳の「檜図屏風」や狩野長信の「花下遊楽図屏風」の復元が紹介され、その鑑賞法について推測が行なわれている。このうち東京国立博物館に所蔵されている後者は、著者がデジタル復元を手がけた最初の作品だ。

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