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13. 【祝・芥川賞】複合機殺害事件・地質調査会社OLは見た!(湯けむり無し)

津村記久子『アレグリアとは仕事はできない』

  • 千野 帽子

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2009年1月15日(木)

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アレグリアとは仕事はできない

アレグリアとは仕事はできない』 津村記久子(著)、筑摩書房、1470円(税込)

 年頭早々から土曜出勤してしまった日直のチノボーシカです(私の業界は、年度の後半に土曜出勤が頻発します)。

 『ポトスライムの舟』でこのたびの芥川賞を受賞した津村記久子だが、この受賞作はまだ単行本化されていない。

 津村記久子『アレグリアとは仕事はできない』(2008)のミノベは、地質調査会社に勤めている。〈もっとも低い立場からそのキャリアを始め、今もそこに留まっている〉彼女は、道具や機械を手なずけるのが得意で、あらゆるダメツールをカスタマイズしてきた。

 〈未だウィンドウズMeが入っている自分用のパソコン〉、〈排出する一枚目をトナーで汚すという粗相をしてしまうモノクロコピー機〉、〈マゼンタが強すぎるカラーレーザープリンタ〉、〈どうしようもなく人差し指と親指の付け根を痛めつける持ち手が金属製のはさみ〉、〈二五ミリまでの針を食えるとうたいながらも、一二ミリ以上を飲むのが苦手なステープラー〉……

ミノベの努力に機械や道具はそれなりに報いた。控えめに言っても、共存が可能だというレベルに達してくれた。しかし意識的に怠慢する機械だけはどうしようもない。〔…〕

 ミノベに言わせると、アレグリアはどうしようもない性悪だった。快調なスキャン機能で、それを主に使う男性社員の歓心を買い、その実怠惰そのものの態度をミノベには示し、まるで媚を売る相手を選んでいるようにも見える。

 作品の表題にあるアレグリアとは、〈A3からA1対応のプリンタ、スキャナ、コピーの三つの機能を持つ複合機〉、〈品番YDP2020〉である。ミノベとトチノ先輩は、仕事がらほとんどこれをコピー機として使っている。いっぽうこれをスキャナとして使うのは、男性社員が多い。

 スキャナとしては大過なく日々の勤めを果たしているアレグリアだが、コピー機としてはいろいろと問題が多い。

 寒くもない作業室で、なにかというと〈ウォームアップ中です。しばらくお待ちください〉と表示して休む。

 一分動いて二分止まる。

 200メートルの紙ロールがまだ12メートル近く余っている段階で〈用紙切れです〉と言い張ってきかない。

 取扱説明書にない253などというエラーコードを出す。

 そのくせサポートセンターに電話しているさいちゅうに意味もなく復活したりする。

 あるいは最低な仕事ぶりの直後、社長の前で最高に賢いパフォーマンスを見せたりもする。

 「こういうタイプの社員っているよね」といった感じでアレグリアを擬人化して読むのは、それほど実りの多い読みではない。ことさらに「擬人化」しなくても、私たち日本人の職場環境、生活環境は、この手の機械をじゅうぶんに「人」としてあつかっているのだから。

 〈どうにもせっかち〉で〈簡単にいらいらするようなところ〉があるミノベは、この複合機のせいでいつも胃が痛い思いをさせられている。アレグリアを〈働かないやつは死ね!〉と罵倒するしかない。

 ミノベのつらさは、マシンの性能それ自体というよりも、その問題を他の社員に理解してもらえないディスコミュニケーションの孤独にある。

自分が最も受け入れがたいことはいったいなんなのだろうかと考えた。それは結局、たった一人でこの機械はおかしい、と主張し続けることで、それに一切の共感を得られないことだった。同じくらいの頻度でアレグリアと接している先輩が、一向に苛立ちを見せないということも辛かった。どれだけ苦情を言っても、サービスのものを派遣しますとしか言わないサポートセンターの女の人たちもまた。

 この〈先輩〉、トチノ先輩とは、〈物事を悪しざまに言わない、焦らない、どんなときも他の社員の利益を優先させる〉という、ミノベとはだいぶ違った性質の人物で、しかも〈朝早く起きて髪を巻くような自己管理能力があって、それなりにかわいらしい見た目をしているし、そのうえ真面目で気が優しい〉ときたもんだ。アレグリアの気まぐれは、ミノベと先輩との関係をも変質させていく。

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