ある企業で管理職の方々を相手にコーチングのトレーニングをしていたときのことです。1人の部長さんが、冗談交じりにおっしゃいました。
「鈴木さん、部をまとめるのも大変だけど、家庭をまとめるのはもっと大変だよ」
明るく笑っておられましたが、そういうときに限って内心は真剣に悩んでいたりすることもあるので、どういうことか聞いてみました。部長さんはこう続けます。
「私は東京に単身赴任で来てるんだけどね。実家は福岡で遠いから、月に1回ぐらいしか帰らない。でも、下の子が小学校の運動会に出る日は何があっても帰ってたわけ。それで一昨日、家に電話して家内に『今週末は運動会だろ。帰るよ』って言ったらさ、『いいわよ、帰ってこなくて。あの子も別に見に来なくていいって』と。なんか寂しくなっちゃってさ」
いろいろなことを考えさせられる話ですが、1つ言えるのは、人はみんなその場における役割が欲しいということです。だから、家で役割を感じられないお父さんは結構つらい。
乗せ方がうまい奥さんは、「仕事がつらい」などと不満を漏らす夫に、「なに言ってんの! うちはあんたのおかげで成り立ってるのよ。がんばってくれないと困るじゃない!」と、お尻を蹴飛ばすものです。「そうなの……」と同調したり、「あなたが悪いわけじゃない」とかばったりはしない。
奥さんは思いっきり夫に役割を課すのがいいのです。人間は役割がはっきりすれば結構動けますから。分かりやすい例として専業主婦の家庭の場合をとりあげましたが、もちろん働く女性に対しても、どんな立場の人に対しても、当てはめられる基本原理です。
「ちょい役」なんてつくらない
少し前の話になりますが、福島大学陸上競技部の川本和久監督と、NHKの「ラジオ深夜便」という番組で対談したことがあります。同部は現在の日本記録保持者を4名輩出し、またいくつもの学生記録を誕生させるという、知る人ぞ知る驚異的なチームです。
川本監督からお聞きした話は、どれも書いて机の横に張っておきたいくらい素晴らしいものでしたが、なかでも私がインパクトを受けたのはチームの作り方です。
チームは家族のようなものだと川本監督は考え、家族になぞらえた役割を選手たちに与えていきます。
まずは、「お父さん」をつくる。適役の選手を選び、時には監督を代弁して厳しいことを言うくらいのスタンスで振舞って欲しいと伝える。「お父さん」だけだとみんな苦しくなってしまうので、やさしく見守ってくれる「お母さん」もつくる。それから何でも相談できる「お姉さん」、などなど……。
もちろん組織を機能させるための役割づくりなのですが、選手からすると自分の存在価値が高まるでしょうし、居場所がきちんとつかめるような感覚になるのだと思います。役割意識が個々の選手のモチベーションをも高める。
企業でも、チームづくりのうまいマネジャーは、メンバーの役割をつくり出すのが上手なようです。「お父さん」「お母さん」のように、どのようなスタンスで振舞ってほしいかという立ち位置から、プロジェクトのリーダー、ミーティングの進行役、風土管理人、飲み会の幹事といった具体的な担当にいたるまで、どんどん役割をつくっては、それをしっかり割り当てていく。飲み会の幹事でさえ、「とても重要な役割だからな」と言って思いっきり任せる。
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