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構成員約4万人、彼らはなぜ存在するのか~『山口組概論』
猪野健治著(評:荻野進介)

ちくま新書、780円(税別)

  • 荻野 進介

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2009年1月21日(水)

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山口組概論──最強組織はなぜ成立したのか

山口組概論──最強組織はなぜ成立したのか』 猪野健治著、ちくま新書、780円(税別)

 今から十数年前のこと。ヤクザ映画の後追いファンになった私は、新宿の片隅にあった昭和館に週をおかず通っていた。同名の歌が大ヒットした「網走番外地」、群像劇の傑作「仁義なき戦い」、三島由紀夫も好きだった唐獅子牡丹の「昭和残侠伝」……義理と人情の板ばさみに悩みながら、ドスを片手に暴れまわる男たちに何を託していたのか。いま考えると恥ずかしさが先に立つ。

 映画をきっかけに現実のやくざにも興味をもった。何冊かの本を読み、やくざについてはわかった気になっていた。ところが本書を読み、「スクリーンの上のやくざと現実のやくざは違う」と一知半解を恥じた。

 会社と同じ、やくざも一つの利益集団なのだが、その利益がどこから来ているのかという下部構造の認識が抜け落ちていた。やくざ本来の粗暴さを如何なく発揮し、たまたま規模が大きくなったのが山口組だろう、と思っていたら、そんな単純な話ではなかったのだ。

 本書は、40~50人の労務者を抱えてスタートし、現在は8万人いるやくざの半数を占めるに至った山口組90余年の歴史を辿る、いわば裏日本近現代史である。山口組を理解できなければやくざは理解できず、やくざを理解できなければ日本社会の全体像を理解できない。底流となる著者の問題意識はこんなところだろうか。

 初代・山口春吉から現在の司忍(つかさ・しのぶ)まで、山口組組長は6人いるが、それぞれのリーダーシップを中心に、〈裏社会のリーディングカンパニー〉の“社史”が、人物伝と当時の社会情勢、著者独自の考察という程よいバランスで綴られる。

 著者がまず強調するのがその出自だ。多くのやくざは江戸時代の博徒組織から発展したが、山口組は違う。貧しい漁師だった初代が淡路島を出奔、資本主義勃興期の神戸港で沖仲仕(荷揚げ労働者)として働き始め、数年後、他の沖仲仕たちを束ね、人夫供給業を行う山口組を立ち上げた。1915年ごろのことである。

 この初代、なかなか目端の利く人物で、当時大流行していた浪曲に目をつけ、その興行に自ら乗り出すほか、神戸の魚市場の荷役という仕事も確保している。

 二代目の山口登(初代の長男)は、港湾荷役業における山口組の地位を上げ、全国に名が知られる興行界の顔役にまでなったが41歳で死去。三代目を襲名したのが、山口組「中興の祖」である田岡一雄だった。

非正規雇用者のために闘う大親分

 彼は襲名にあたって、組員各自に正業をもたせる、信賞必罰による体制の確立、昭和の幡随院長兵衛(口入れ業という正業をもち、戦いでは侍にも負けなかった江戸時代の有名な侠客)を目指す、という3つの誓いを自らに課した。山口組=会社だとしたら、経営戦略、人事評価基準、そしてビジョンを示したわけである。

 田岡自身、「隗より始めよ」で、襲名直前の1946年に株式会社山口組という土建業の会社、つまり正業を立ち上げて見せた。これにはカムフラージュの目的もあった。敗戦後の混乱が収束すれば警察の取締りが厳しくなるが、株式会社を保有していれば、組として生き残る橋頭堡になると考えたのだ。

 二代目の功績を継いだ興行でも抜かりはなかった。吉本興業系のやり手興行師をスカウトし、浪曲だけでなく、芝居、漫才、歌謡ショーへと芸能事業を本格化。かの美空ひばりとも親交を結び、公私にわたる後見人の地位を獲得した。

 本拠地である港湾でも労働組合を発足させ、日曜・祝日の完全休業を船主協会に要求し、聞き入れないと見るや、何度も上京しては政財界の大物と接触、ついに運輸大臣の斡旋で休日の荷役料の大幅アップを実現させた。また仲仕への虐待があった際は仕事をストップさせ、外国船と船会社を相手に抗議行動を繰り広げた。

〈田岡は日雇労働者たちを組織化することで、大資本から「高度経済成長」の分け前を引き出した。これは、現在でいえば、大工場などの正社員の組合からも黙殺される非正規雇用の労働者を組織化し、大企業相手に闘争を挑むようなものである〉

 もちろん、こうした「正業」の裏で、風俗店やパチンコ店からみかじめ料を徴収し、日々のしのぎとする組員たちも多数いた。田岡はそうした「組」の部分と事業の完全分離を図った。具体的には、事業を行っている会社には組員の在籍を許さなかったし、本格的に事業に携わるようになった組員には、配下に兵隊(若い衆)をもつことを固く禁じた。

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