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会場に行ったら、実は落選だったと言われました~『芥川賞を取らなかった名作たち』
佐伯一麦著(評:朝山実)

朝日新書、780円(税別)

2009年1月23日(金)

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芥川賞を取らなかった名作たち

芥川賞を取らなかった名作たち』 佐伯一麦著、朝日新書、780円(税別)

「ドッキリじゃないかと思いました」

 昨年、野間文芸新人賞の記者会見で、宝くじの当選者みたいなことを言っていたのは津村記久子さんだった。先ごろ芥川賞を受賞したそのときも、文学の担い手みたいな気取りもなければ、不良ぶるでもなく、すこしおちゃめな受け答えを見て、おもしろいひとだとおもった。

 兼業作家であることから、会社勤めはやめないのかと問われ、同僚と話したりしているのが面白いから、そんなことは考えないと話していた。一連の作品からも「ふつう」をベースにしている作家だというのはよくわかるひとだ。

 受賞が決まると、記者会見に出席する。夜9時のNHKニュースが映す。段取りされたイベントだが、「ドッキリ」まがいの珍事が過去にはあったらしい。

 自分が受賞したとの知らせを受け、会見場にかけつけところ、落選を告げられた作家がいた。吉村昭だという。

 吉村昭の「透明標本」が氏にとって3度目の芥川賞候補となったのは、昭和36年下半期。票が割れ、宇野鴻一郎の「鯨神」との同時受賞と場がまとまったところで、吉村に電話が入れられた。しかしそのあとである。選考会を欠席していた井伏鱒二に電話で意見を求めたところ、「二人のうちなら宇野鴻一郎のほうがいい」の一言で、吉村の受賞は消えた。

 考えられない不手際だが、著者もいうように、そのことに屈せず、書き続けた吉村昭の態度は立派なものである。

 本書は、著者がカルチャーセンターでおこなった文学講座をまとめたもので、タイトルのとおり、芥川賞の候補にあげられながら受賞を逃した作品と作家に光をあてようという試みだ。

豊作だった年は「受賞作なし」?

 「芥川賞の舞台裏に迫る!」とオビにある。昭和10年上半期(第1回)の候補となるも、選考委員の川端康成に受賞を阻まれたと食ってかかった太宰治や、6回も落選を味わった島田雅彦らの逸話がこれにあたるわけだろうが、煽り文句から想像しがちな「見る目のなかった選考委員」をぶった切って面白がろうというのとは異なる。

 たとえば、優劣つけがたい作品が2本残った場合には「二人同時受賞」に決まることがあるが、最後まで3本が競り合ったときに、どうなるか。

 選考委員同士が自分の推す作品を譲り合うことがないと、「受賞作なし」となることが多いという。それぞれに文学観を背負っているものだから、互いに引き下がれなくなり、痛み分けの結果に落ち着くにしても、今年は豊作だったので選べませんでしたというのは、みょうな話だ。

 さて、著者が取り上げるのは、上記した吉村、太宰、島田を含む12人。蒙昧なワタシにとって、はじめて知る名前が何人も入っている。

 昭和11年上半期に、ハンセン病施設での療養体験を小説にした「いのちの初夜」が候補となった北條民夫は、川端康成が北條に送った手紙などから、受賞を推す声は多かった。しかし、当時のハンセン病への偏見から、マスコミが騒ぎ、創作の障害となることを川端が危惧し、あえて落選させた。

 ほかにも、身を切るようにして中国大陸での戦争体験を書くも「古風である」と評価を得られず、のちに美術評論家として大成する洲之内徹や、著者がどう考えても受賞にいたらなかったのが理解できないと語る干刈あがたなど、名作の再評価が主眼である。

 ちなみに、手前みそになると自粛したのか、本書では触れられていないが、著者の佐伯一麦氏も2度、芥川賞候補にあがったことがある。野間文芸賞を受賞するなど、地味ながら市井の日常を書き続けている私小説作家である。

 そんな佐伯氏は、「庶民や平凡な人」を描いたといわれる作家を指して、こう語っている。

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