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我らが公共放送の素晴らしき判断

「敬語」(摩擦の蓄積から生まれた距離感の表現方法)

2009年1月26日(月)

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 最初に前回の「婚活」について少し。

 オダジマは誤解をしておりました。

 「婚活」という言葉は、てっきり女性の結婚準備に関するあれこれを描写した営業用語であると、そう思っていた。申し訳ない。言葉について連載をしようという人間が、こんな初歩的な間違いをやらかすとは。

 勘違い、思いこみは、誰にでもある。宰相にさえ。もちろんわれら凡人においておや。

 問題は、その勘違いや思いこみを、放置していたことだ。
 原稿を書き始める前に、せめて確認すれば、こんなくだらないミスを犯さずに済んだはずだ。

 が、私は確認しなかった。
 油断。
 あるいは、「汎ウィキペディア環境下にあるライターに生じた気の緩み」と、大げさに分析すればそういうことになる。

「なーにググればオッケーなわけだろ?」

 という安易な心構えが、最低限の裏取りを怠らしめる――おそろしい成り行きである。くわばらくわばら。

 それにしても、どうしてかような思いこみが生じたのだろう。
 いかなる状況が、オダジマをして「婚活」を女性限定のアクションであると思わしめるに至ったのであろうか。

 一因は「広告」にある。より具体的には、自分のブログに毎日多量に送られてくる宣伝用のトラックバックに対する苛立ちが、私の目を曇らせていたのである。

 自分のブログに、たとえば「減量」「体重」「加齢」といったあたりの概念に多少ともかかわりのある記事を書いたとする。あるいは、その種の言葉を使ったテキストをアップする。
 と、すかさず、数百通のスパム広告が押し寄せる。
 さよう。インターネットの世界は、いまやバーチャル訪問販売業者の巣窟なのである。

 「ウェブ」の語源は「蜘蛛の巣」から来ているのだそうだが、なるほど、この世界のプレデターは飛んで来る虫を絡め取ることばかり考えている。だから、ウェブの定置網の中では、営業に結びつきそうな言葉をピックアップする検索ロボットプログラムが、今日もカモを探して巡回しているわけだ。コンプレックスの草刈り場。出会い系と恫喝系の結託によるハイパーデジタル美人局オペレーティングシステム。うむ。イヤな世相だ。

 ロボットは、ターゲットの言葉を発見すると、その言葉が使われているブログに向けてスパム広告を送りつける。そういうふうにプログラミングされているのだ。

「驚き! 3カ月で20キロ減を達成する奇跡のダイエットレシピ」
「婚活エステ」
「サイズで悩んでいませんか?」
「毛根に青春を」

 ……うっせえ! と、だから、昨年の夏、たまりかねた私は、トラックバックを閉鎖した。
 と、今度はコメントを装った疑似広告が届くようになった。

「いつも楽しく拝見しています。健康に気をつけて頑張ってくださいね」

 おお。うれしいコメント。温かい言葉。無遠慮なコメントに傷ついたブログ運営者の心に蜜のように染みこむ営業トーク。

 が、このURL付きの猫なで声で送られてくる女名前のコメントをうっかり踏むと、面倒くさい営業が始まるのだな。猛烈にいまいましいことに。

「私を奴隷にしてください」

 とかなんとか。
 冗談じゃないぞ。オレのどこが奴隷に金を絞り取られたいと念願している男なんだ? そういう決めつけに弱い顧客が500人に1人いれば、それでキミたちのビジネスモデルは成立すると、そういうわけなのか?

 ほかにも、スパムは、芸能人の名前、エロ単語、コンプレックス産業用語(髪の毛、ニキビ、背丈その他色々)といったあらゆるエサに食いついてくる。

 で、私は、「婚活エステ」「婚活の第一歩はダイエットから」「婚活メイクアップ術」みたいな、物欲しげな広告のヤマをかき分けるうちに、「婚活」についての偏見を定着させたのである。おそらく。

「婚プレックス産業ってわけだ」

 と。

 かように、新語は、産業化される過程で、様々なバイアスにさらされる。オヤジの癇癪や、嫁入り前の娘の苛立ちや、閉経恐怖や、ビューティー妄想産業の伏線敷設活動みたいな、諸々の醜悪極まりない短絡に、だ。

 さて、今回は、「閣下」について考える。あるいは敬称一般や、敬語周辺の諸事情についても、思うところを述べてみたい。

           *       *       *

 平成21年大相撲初場所の中日八日目、私はNHKの大相撲中継を見ていた。ナマで相撲を見る人生。余生と呼んでも良い。巌窟ライターに与えられた恩寵としての娯楽。終わらない午後。引退老人とニートの天国。永遠の昼下がり。幸いなるかな汝働かざる者、天は汝らに相撲取りを遣わされたればなり。

 「おお」

 と、私は思わず声を出しそうになりましたよ。

 だって、デーモン小暮閣下が出ていたからね。それも、わが青春の不良横綱・黄金の左腕・伝説のアドリブ力士・輪島とともに。肩を並べるカタチで。なんという素晴らしい人選。悪魔ブラザーズ。出張ミサとしての大相撲観戦。小悪魔メイクならぬフル悪魔メイク。

 しかも、この大相撲を愛してやまない2人の無頼派観戦者を紹介するに当たって、NHKはなんとも素敵なシナリオを用意していた。

「デーモン小暮閣下さん」

 と、NHK総合の画面は、デーモン小暮を、「閣下」付きで紹介し、さらにその敬称に「さん」をカブせていたのである。なんという斬新な処理。

 当然、当日の実況を担当していた岩佐アナウンサーも、「本日、解説におこしいただいたデーモン小暮閣下さんです」と、デーモンを「閣下さん」呼称で紹介していた。

 素晴らしい。
 NHKぐっじょぶ。私は感動していた。

 背景を説明せねばならない。

 デーモン小暮氏が大相撲中継の解説に登場したのは、実は、今回が初めてではない。
 2006年の初場所で、同じ中日の解説者として招かれたことがあった。
 その時も、実況は岩佐アナだった。

 閣下の解説は好評だった。

 なにしろ知識の量がすごい。技術的な視点も確かだし、伝統文化としての相撲を語る見識も高い。それになにより大相撲に対する愛情の深さがそこいらへんの漫画家や脚本家とはまるで違っている。相撲取りに対するリスペクトという最も大切なポイントに関しても、文句のつけどころは皆無。まったく百点満点の解説者だった。




(小田嶋隆氏が高校時代の同級生にして最強の広告クリエイティブディレクター、岡康道氏ともろもろ対談するコラム「人生の諸問題」もお見逃しなく。顔写真も大きく載っています。最新回は→こちら

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「我らが公共放送の素晴らしき判断」の著者

小田嶋 隆

小田嶋 隆(おだじま・たかし)

コラムニスト

1956年生まれ。東京・赤羽出身。早稲田大学卒業後、食品メーカーに入社。1年ほどで退社後、紆余曲折を経てテクニカルライターとなり、現在はひきこもり系コラムニストとして活躍中。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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檜山 敦 東京大学先端科学技術研究センター 講師