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麻生首相の、冬休みの一冊~『大平正芳──「戦後保守」とは何か』
福永文夫著(評:近藤正高)【奨】

中公新書、840円(税別)

  • 近藤 正高

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2009年1月27日(火)

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評者の読了時間8時間26分

大平正芳──「戦後保守」とは何か

大平正芳──「戦後保守」とは何か』 福永文夫著、中公新書、840円(税別)

 1970年代末から80年代初頭にかけてテクノポップで国内外を席巻したバンド・YMOには「増殖」というアルバムがある。

 1980年6月5日にリリースされた同アルバムでは、YMOの楽曲のあいまにスネークマンショーのコントが挿入され、そこに何度か時の首相・大平正芳の名前が登場する。たとえば、日本人(演じるのは伊武雅刀)と欧米人(同じく小林克也)との会話というネタでは、「Mr.Ohira」なる日本人が英語をほとんど理解しないのをいいことに、欧米人が英語で悪口をまくしたてる。

 いまこれを聴くと、ちょっとあんまりではないかと思う反面、「鈍牛」というあだ名や、答弁の際に「アー、ウー」と不明瞭な言葉を発した彼のイメージからすれば、そんなふうに揶揄されてもしかたがなかったのかも……という気もする。

 たしかに大平は、強いリーダー像とは無縁の政治家だった。彼自身、首相にリーダーシップは無用と言ってはばからず、むしろオーケストラのコンダクターよろしく、ハーモニーの維持に努めるべきだと説いたという。その点では、没後再評価が高まっている吉田茂や岸信介、あるいは田中角栄といった政治家とは大きく異なる。

 にもかかわらず、個人的に大平には惹かれるものがあって、僕は以前より色々と関連書を読んでいた。なかでも、三木武夫、田中角栄、大平、福田赳夫のいわゆる「三角大福」による自民党内の権力闘争を、大平の側近という立場から描いた伊藤昌哉の『自民党戦国史』(朝日文庫)には熱中したものだ。

 本書の著者もまた、伝記や回想を通してその人となりを知るにつけ、歴史的・政治的評価とは別に嫌いになる政治家が多いなか、例外的に惹かれたのが大平正芳だった、とあとがきで明かしている。日本政治の研究者をしてそう言わしめる大平とはどんな政治家だったのか。本書はその生涯を通して、戦後政治の歩みをたどり、ひいては副題にもあるように戦後の保守政治とは何だったかを問う。

消費税導入を訴えた最初の首相

 大平の生涯を貫く持論に「楕円の哲学」がある。ものごとに対し楕円形のように二つの中心を見出し、両者が均衡を保ちつつ緊張した関係にあることを理想とする考え方だ。これは、大平が自著『風塵雑俎』(ちなみに彼の著作は現在、ウェブ上ですべて公開されている。こんなケースは日本の政治家ではまれだろう)で述べた次のような政治観からもうかがえる。

《政府が引っ張って行って、それに唯々諾々とついていくような国民は、たいしたことを成し遂げられない。政府に不満をもち、政府に抵抗する民族であって、はじめて本当に政府と一緒に苦労して、次の時代をつくれる》

 この一文からはまた、大平の国民への信頼も読み取れるはずだ。しかし首相在任中にあって、彼のこうした姿勢は裏目に出てしまう。

 もっとも顕著な例は、膨大な赤字国債を処理し財政再建を図るため、「一般消費税の導入」を訴えてのぞんだ1979年10月の総選挙だ。このときも大平は国民を信じて愚直に説得を行なったが、国民や野党のみならず自民党内からも強い反発を受け、投票直前になって取り下げざるをえなかった。しかしときすでに遅く、選挙は自民党の敗北に終わる。

 選挙後、福田赳夫や三木武夫らは大平に辞任を迫るも、彼は「私にやめろということは、死ねというのと同じだ」と突っぱねる。これにより自民党内は「40日間抗争」と呼ばれる派閥間の対立に揺れた。

 そのしこりは大平が第2次内閣を発足させてからも残っていた。翌80年5月には野党の提出した内閣不信任案が、福田派などの一部の自民党議員たちが決議を欠席したため可決してしまう。大平は前年に続き衆院を解散し史上初の衆参同日選挙で応じたが、その公示日に病に倒れ入院、首相在任のまま6月12日に死去する。選挙はにわかに弔い合戦の様相を呈し、同22日の投票の結果、自民党は大勝を収めた。

 ところで消費税は、その後竹下登政権期の1989年に導入されるにいたった。これについては、第2次大平内閣で蔵相を務めた竹下が大平の遺志を継いだものと説明する本もある(塩田潮『戦後政治の謎──自民分裂を予感させる「30の真実」』講談社+α新書)。

コメント2件コメント/レビュー

私も大平氏を好きになりました。存命でないのが残念です。今、大平氏のように理念と理想を掲げ国民を信じる政治家がどれほどいるでしょうか。耳障りの良い言葉を発する政治家はいても、彼らの理念と理想は利権私欲が見え見えで、国の将来を託す気にはなれません。現在の利権政権欲まみれの政治と、マスコミによる偏向報道の影で、大平氏のような理念を持った政治家の存在がかき消されているのではと考えさせられます。ネットが普及した今こそ、政治家は理念理想を全国民に向け積極的に発信し、利権と批判に屈せず邁進していただきたいと切に願います。(2009/01/29)

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いただいたコメント

私も大平氏を好きになりました。存命でないのが残念です。今、大平氏のように理念と理想を掲げ国民を信じる政治家がどれほどいるでしょうか。耳障りの良い言葉を発する政治家はいても、彼らの理念と理想は利権私欲が見え見えで、国の将来を託す気にはなれません。現在の利権政権欲まみれの政治と、マスコミによる偏向報道の影で、大平氏のような理念を持った政治家の存在がかき消されているのではと考えさせられます。ネットが普及した今こそ、政治家は理念理想を全国民に向け積極的に発信し、利権と批判に屈せず邁進していただきたいと切に願います。(2009/01/29)

戦前に日本が破滅への道を歩み始めたのは、原敬の暗殺以降のことであり。戦後の没落のはじまりは、田中角栄と大平正芳へ共通する全国民の政治的な抹殺以降であろう。あの二人が十分に活躍の時間を与えられていれば、日本の全盛期はより長期に及んだろう。つまり、中曽根も竹下も5年は権力の座に就くのは遅れたろうし、小渕や橋本はもっと寿命を永らえたはずだ。おそらく、小泉は終生出番も無かったろう。国家的な重要人物は意外と俗論によって葬り去られるようだ。麻生首相がいまさら大平氏のことを勉強しても、状況は遅きに失しているのではと感じる。(2009/01/27)

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