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「エコ」でも「地球にやさしい」でもない~『自然な建築』
隈研吾著(評:清野由美)

岩波新書、700円(税別)

2009年1月29日(木)

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自然な建築

自然な建築』 隈研吾著、岩波新書、700円(税別)

 ミッドタウン東京の「サントリー美術館」、六本木ヒルズ森タワーの「アカデミーヒルズ」、ティファニー銀座本店ビルのリニューアル──。バブル後の東京で次々と大型プロジェクトに起用され、専門誌、グラビア誌、そして女性誌からテレビまでメディアに頻出。ひとり勝ちと揶揄される隈研吾は、一貫して都市建築の王道を歩いてきたエリート建築家と思われがちだ。

 実際、隈の経歴はエリートそのもの。東京大学工学部と同大学院、ニューヨークのコロンビア大学で学び、大手設計事務所勤務を経て、自身の都市建築事務所を設立。慶應義塾大学理工学部教授も務めながら、日本のみならず世界を飛び回る、という人物像は、まさしくメインストリーム以外の場所にはおけまい。

 ただしメインストリームを走る人物には、嫉妬の集中砲火を浴びせるのが、この国の習いでもある。インパクトの強い隈の作品は、話題とともに、常にある種の反感を込めて人々の間で語られてきた。とりわけ大建築冬の時代に、次々と大型のクライアントを獲得し続ける隈を、世渡りに長けたおいしいトコ取り志向と見るむきも少なくない。

 だが、そういう了見で、ひとつの国家的才能から目をそむけてしまうのは、つくづくもったいないと思う。だいいち隈の歩いてきた道は、表面ほど恵まれたものではない。

 そのひとつに、バブル崩壊後の10年間、隈が東京の建築シーンから一切、締め出されていたことがある。きっかけは、まさにバブルの末期、1991年に世田谷・環状8号線沿いに華々しく完成させたマツダのショールーム「M2」だった。

 覚えている人もいるかもしれない。ガラス張りのオフィスビルかと思いきや、外壁の中央をイオニア式の巨大な柱が貫き、中には不必要な空間がいたるところに出現するこの建物は、完成直後から激しいブーイングにさらされた。バブル期の大げさなモチーフに加え、古今の様式や装飾をあえて多用した建物は、狂騒の景気に踊る世相を笑い飛ばす試みだったが、建築家がこめた高度な皮肉は、人々にはまったく受け入れられなかったのだ。

コンクリートから水、石、竹、土、和紙へ

 東京へ放った矢の一撃があっけなく落下すると同時にバブルははじけ、日本は「失われた10年」へ。本書はその間、都市から一転し、日本の地方で土地に根ざした建築にコツコツと取り組んだ建築家の、「自然な建築」への試みと考察を記録したもの。都市の代名詞であるコンクリートを離れ、その土地ならではの「場」と「素材」にこだわり、水、石、竹、土、和紙などを建築に取り込んでいく、それぞれの物語だ。

 取り上げられている作品は、「水/ガラス」(1995年・静岡県・ゲストハウス)、「那賀川町馬頭広重美術館」(2000年・栃木県)、「亀老山展望台」(1994年・愛媛県)、「グレート(バンブー)ウォール」(通称・竹の家)(2002年・北京市郊外・リゾート)など。いずれも建築ファンには、敬意をもって語られる作品たちだ。「竹の家」は、吉永小百合が出たシャープのテレビCMで見た人も多いだろう。

 「水/ガラス」は、太平洋を望む丘の上に、まるで海と建物が一体になるかのようにガラスでできた透明な部屋がしつらえられている。「広重美術館」は、背後の林と建築が同化するごとく、木のルーバー(連続する直線の桟)が建物を覆う。「亀老山展望台」は、通常、山のてっぺんに立てる展望台を、山の中に埋め込んで、その存在を消してしまう、という試みだ。

 隈の「自然な建築」が意味するのは、昨今流行りの「エコロジーな建築」や「地球にやさしい建築」ではない。それは「自然」という圧倒的なものを前に、建築家という「人工」が何をできるのか、という終わりのない問いかけに近い。

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「「エコ」でも「地球にやさしい」でもない~『自然な建築』
隈研吾著(評:清野由美)」の著者

清野 由美

清野 由美(きよの・ゆみ)

ジャーナリスト

1960年生まれ。82年東京女子大学卒業後、草思社編集部勤務、英国留学を経て、トレンド情報誌創刊に参加。「世界を股にかけた地を這う取材」の経験を積み、91年にフリーランスに転じる。2017年、慶應義塾大学SDM研究科修士課程修了。英ケンブリッジ大学客員研究員。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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