「アニメから見る時代の欲望」

アニメから見る時代の欲望

2009年1月29日(木)

人を育てない組織は必ず復讐される

水島精二監督「機動戦士ガンダム00」(4)

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(前回「ショートカット志向にどう立ち向かう?」から読む)

―― 「『ショートカットの欲望』に抗するには、「ダイレクトな接続」しかない。ショートカットを求める世の中に、ダイレクトな接続を作品で訴えていくのは、難しい仕事になりますが」と監督はおっしゃいました。

 ショートカット、すなわちコミュニケーションにつきものの面倒を避ける志向と言い換えてもいいと思います。世代に関係なく、「おせっかい」的なことをやらない人が増えている。実感として頷かれる方も多いのではないかと。そんな社会に作品を提供していくための、監督の処方箋はどんなものなんでしょう。

水島 作品をつくる方法論でもあるのですが、個人的には人間って、「楽をしたい」よりも「感動したい」のほうが欲望として大きいし、うれしさのリターンもずっと大きいと思うんですよね。だから「面倒は楽しいことだよ」と、あえて言いたいんです。

―― 面倒が楽しいというのは、「お仕事」でも感じることはありますか。

「あなたはアニメ監督、どんなスタッフを選びますか?」

「機動戦士ガンダム00」 水島精二監督

水島 精二(みずしま・せいじ)
東京都府中市出身、1966年1月28日生まれ。東京デザイナー学院卒。撮影、制作進行を経てアニメ演出家。『機動戦士ガンダムOO』のほか『ジェネレイターガウル』『鋼の錬金術師』『大江戸ロケット』などで監督を務めている(写真:星山 善一 以下同)

 ありますよ。あえて面倒にしたいわけではないのですが(笑)、やりたいことをしていくと、結果的に面倒が必要になるということで。

 たとえば、あなたがアニメの監督だったとしましょうか。自分の仕事を楽にして、しかもクオリティを上げたい、と思ったら、どうするか。おそらく仕事の経験値がすくない人ほど、スタッフはその分野の第一人者を揃えればいい、と、つい考えてしまうんじゃないでしょうか。

 僕はどの作品を作るときも、主要スタッフの人選は基本的には全部自分でするようにしているんですけど、その理由は、アニメの制作は単に優秀な人を集めれば良い……というわけではないからなんですね。

―― と、言いますと。

 1人1人が職人ですから、優秀な人ほど、自分のやり方で良い仕事をしたいと思っています。

 でもアニメは集団で作る。しかも共同作業、連携作業がすごく多い。
 職人さん同士でやり方が違うから、優秀な人を集めれば、個性の強い人も集まってくる。僕とスタッフさん、そしてスタッフ同士でも食い違いが起こるんです。

―― では、スタッフを集めるときは、なるべくケンカが起こらない相性の良い人を……。

 それも違います。ケンカがない、面倒がない人ばかりそろえるということはやらないです。優秀だけど穏やかな人、優秀で癖の強い人、いろいろいますが、全ては組み合わせだと考えるんですね。

 だから、無駄にケンカが起きる組み合わせはしないようにしています。この人とこの人はすごく優秀だけど、恐らくぶつかってしまうだろうと思ったら、最初からそういう組み合わせにはしないように工夫します。

 でも、穏やかな人ばかりでそろえたりはしないですね。僕の言うことを全部聞いてくれるような人ばかりだと、すごく型にはまった安パイなものでまとまってしまうのも分かっているので。これは自分の、過去の経験からわかったことです。

―― 監督の言うことを聞かない人も取り込む。それでは「面倒」も起きますね。たとえば、でき上がってきたものが、ご自身が考えていたものと大幅に違ったりすると、ときには苦言を呈すなど、マイナスなこともスタッフに言わなければいけないですよね。「君、ここ、よくないよ」というような……。

言うことは言う、言い方は選ぶ

 言っていますよ。僕はわりと正直な人間なので、そういうときに言わないといけないと思ってしまうんですよね。怒ることはあまりないのですが、どうしても必要なときは、「ここは、こういう理由があってこっちのほうがいいと思うんだよね。変更できないかな」と。

―― でも、中には「自分はこれが正しいと思いますから」、と難色を示す方もいらっしゃるのでは。

 もちろんいますけれども、そこは根気よく。または該当部分の作業からは外す。そのどちらかですね。ここはどうも意見が合わないようだから、他の部分をやってもらおうかな、と。

 でき上がりを見て、僕が思っていることと外れている場合は、それは自分で自信を持って世の中に出せないものになってしまいます。ですから、もし変えてもらえない場合は、ルートとしては、たとえば作画スタッフだったら、立場がひとつ上の作画監督さんに相談してみる、という方法もありますね。

 でもそこまですることはほとんど無いです。俺のやり方が絶対、という人はほとんどいないですね。単純に実力がなくて変えられないという人はいるのだろうけど、ちゃんとした技術を持っている方は、話をすると、うん、分かりました、と言って頑張ってくれることが多いんです。

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著者プロフィール

渡辺由美子(わたなべ ゆみこ)

1967年、愛知県生まれ。椙山女学園大学を卒業後、映画会社勤務を経てフリーライターに。アニメ・コミックをフィールドにするカルチャー系ライターで、作品と受け手の関係に焦点を当てた記事を書く。男性と女性の意識の差を取材した記事も多い。著書に「結婚ってどうよ!?」(岡田斗司夫氏との共著)ほか。


このコラムについて

アニメから見る時代の欲望

アニメーションは、頭の中で望んだことを描き動かすもの。作り手の嗜好を忠実に映像化することができる。そして作り手は、視聴者の欲望をいかに捉えるかに常に腐心している。アニメにこそ、時代の欲望が見えるのではないか? そんな仮説を手に、日々アニメ制作に臨む監督たちにインタビューを申し込んでみた。

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