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好きだから見るのではなく、見るから好きになる~『サブリミナル・インパクト』
下條信輔著(評:荻野進介)

ちくま新書、900円(税別)

  • 荻野 進介

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2009年2月4日(水)

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評者の読了時間4時間10分

サブリミナル・インパクト──情動と潜在認知の現代

サブリミナル・インパクト──情動と潜在認知の現代』 下條信輔著、ちくま新書、900円(税別)

 脳ブームが続く出版界。書店に行けば、脳をいかに活性化させ、仕事や勉強に役立てるかという本が並び、雑誌を開けば、お馴染みの脳科学者が飽きられることもなく、同じようなコメントを発している。あるビジネス雑誌の編集長によれば、特集のどこかで脳の話題を出すと読者の反応がいいらしい。「脳科学のお墨付きです」と言われれば何となく納得してしまうのもわかる。

 本書も広い意味では、脳に関する本といえるが、脳そのものというよりは、その働きに着目する。具体的には「情動(≒感情)」と「認知(=外界からの刺激を知覚したり自分の行動を認識すること)」だ。特に後者については、知覚したことや行動の中身は認識しているのに、なぜそう感じたのか、そんな行動をとったのかがわからない「潜在認知」がテーマだ。

 情動と潜在認知の何たるかを端的に表わすのが「人は好きだから見るのか、見るから好きになるのか」を調べた実験だ。

 コンピュータの画面上に2人の人物の顔を並べ、被験者にどちらが魅力的か、ボタンを押して答えてもらう。その間、被験者の眼球運動を測った結果、ボタンを押す1秒前から視線が片方の顔に偏り始め、単位時間当たりの注視率が8割以上になった時点で、その顔のボタンを押していたことがわかった。

 視線の偏りに気づいた被験者はごく少数であり、実験終了後、彼らに「偏りが最終的な選好判断に影響を与えたか」と問うと全員が強く否定した。つまり、視線の偏りという情動反応と、「こっちの顔が好きだ」という選好判断の関係は、本人にとって潜在認知の世界に属するのだ。

〈人はあるものが好きだからそれを見る、という側面もむろんあるでしょうが、見るからますます好きになるのです。このふたつの因果関係の経路は、ちょうどポジティヴ・フィードバックの関係にあって、互いに促進し合います。そしてそれがある閾値(限界の値)を超えたときに、好きという意識的な感情や判断が芽生えるのでしょう〉

 ゼミで一緒になったA子さんが気になる。同じプロジェクトにアサインされたB男君、ちょっといいかも。学校や職場で、席が近かったり、行動をともにした男女がお互い魅かれ合うのも、ポジティヴ・フィードバックの賜物なのかもしれない。

脳にとっての「リアル」とは

 著者が次に着目するのは、人間に「快」という情動をもたらす音楽についてである。音楽の快はどこから来るのか、その答えを探るに当たり、まず伝統的な心理学を切って捨てる。心理学では、快は外部から与えられる、食べ物やお金といった「報酬」によってもたらされると考えるからだ。例えば、レバーを押すと餌のペレットが落ちてくることを学んだネズミにとっては、実験者によって与えられるその餌こそが「報酬」となる。

 しかし、iPodで音楽に夢中になる若者を見ればわかるが、音楽は、そういう意味の「外部報酬」をもたらさない。そこで著者が持ち出すのが「内部報酬」という考え方だ。外部からの報酬はなくても、若者は音楽が提供する情動そのものに内在する快を楽しんでいる。より進化した動物ほど、そうした内部報酬に反応するのではないか、と。

 では音楽鑑賞者が受け取る報酬=音楽の魅力とは結局、何なのか。結論からいえば、それは親近性と新奇性だ。古今東西の音楽にはリズムとメロディに一定のパターンがあり、これがなじみ深さを聴く者に与える。一方で、音楽には変化・変調がつきものだ。さらに、親近性と新奇性には人間の聴覚だけでなく、視覚も惹かれるという。

 著者はこうした考察をもとに、人間の脳は、親近性と新奇性を持つ刺激自体を快と感じるように進化してきたのではないか、という仮説(感覚皮質の暴走仮説)を立てる。

 それを後押しするように、現代社会は感覚皮質の暴走を推し進める方向へ進化している。音楽やコミック、アニメ、テレビゲーム、そしてネットといった多様なメディアの発達が、〈脳内を活性化させるものこそ最もリアル〉という地点に我々を誘っているのだ。こうした潮流を著者は「ニューラル・ハイパー・リアリズム」と呼ぶ。神経系・超現実主義とでも訳されるのだろうか。

 この辺りから著者の筆は人間の個体を離れ、現代社会の諸現象に分け入っていく。例えば、神経科学的アプローチで広告効果や消費者の購買行動を分析するニューロマーケティング理論である。それによって、テレビCMが視聴者に与える効果が意外な面から解き明かされる。

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後藤 忠治 セントラルスポーツ会長