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第140回直木賞受賞 山本兼一氏『利休にたずねよ』

  • 真弓 重孝

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2009年2月6日(金)

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 物語は利休が切腹した日の朝から始まり、年月をさかのぼっていく形で進行していく。それによって、ある事実が少しずつ明かされていく。利休が大切に持ち続けたものとは、何だったのか。

 直木賞を受賞した『利休にたずねよ』(PHP研究所)は、利休が茶の湯で放った特異な美意識の源泉を、ミステリアスに描いた歴史小説。「侘び」「寂び」として形容される、その質素と静寂さを備えた美は、果たして言葉通りのものなのか。

 作品を記した作家の山本兼一氏は、真っ黒い漆の水差し(茶器の1つ)を見て、侘びとは懸け離れた艶っぽさを感じた。そこに利休が築いた独自の居場所を感じ取り、物語の構想が生まれたという。作者はなぜ、一般にイメージされる茶の湯とは異なる世界を描こうとしたのか。

(聞き手は日経ビジネスオンライン 真弓 重孝)

 ―― 『利休にたずねよ』は、人間の欲望がテーマになっていると感じます。千利休が生きた時代(1522~91年)は、いわゆるバブルのような頃でしょうか。

山本 兼一(やまもと・けんいち)氏

山本 兼一(やまもと・けんいち)氏
1956年京都市生まれ。同志社大学文学部卒業後、出版社、編集プロダクション勤務、フリーライターを経て作家デビュー。99年『弾正の鷹』(祥伝社)にて小説NON創刊150号記念短編時代小説賞佳作。2004年『火天の城』(文春文庫)で第11回松本清張賞受賞、直木賞候補に。2008年『千両花嫁』(文藝春秋)も直木賞候補に。2009年1月『利休にたずねよ』(PHP研究所)で第140回直木賞受賞。『火天の城』は映画化され、今年9月公開予定

(写真:菅野 勝男、以下同)

 山本兼一 織田信長の頃からバブルが始まっていました。南蛮人のポルトガル人らが日本にやってきた目的の1つは、銀が目当てでした。それ以前には中国の銀が有名でしたが、中国での採掘量が減少し始めた頃でした。

 そこに日本で生野に大きな銀の鉱脈が見つかり、世界遺産として有名になったあの石見銀山の開発が本格的に始まりました。銀の生産量が急激に増えたことで、バブルが起こったのです。そういう意味では、茶の湯はバブルの申し子です。1つの茶入れが3000貫の値がつくなど、あり得ないことです。

 この時代は町人というか、富裕な町民文化が育ちました。堺の貿易、銀のバブルで富裕な町人たちが増えてきましたから。利休も豊かな家で、経済的には上の中、少なくとも上の下ぐらいの階層にはいました。

 ―― 急速に豊かになることで、人間の欲も前面に出てくる。

 山本 この時代は上から抑えつけるようなものがなかった。江戸時代と比べたら、絶対的な権力のある幕府は、この時代にはありませんでした。豊臣秀吉が天下を取っても、締めつけることはしなかった。

 安土桃山の華やかな文化と、よく言われますが、まさにその通りです。江戸時代の倹約とは無縁の時代です。

 ―― 華やかで自由な時代に生まれた利休によって大成された茶が、侘び茶とか、侘び・寂びという対照的な形で表現されるのは、ある意味でミステリアスです。

 山本 僕もこの作品を書くためにお茶を習う前は、侘び・寂びというのは一般的な認識としてある「枯れて寂しい世界」だと思っていたのです。しかし、それは違っていた。

一種のエロティシズムと言ってもよい

 利休を取り上げた作品をつくるに当たって、資料館に行った際に、そこで真塗りの黒い水差し(茶器)を見ました。その時に、「これは艶っぽいものだな」と感じました。

 一種のエロティシズムと言ってもよいようなものです。すると「じゃあ侘びって一体何だ?」という疑問が湧いてきて、この作品のコンセプトとなりました。

 作品を書くためにお茶を習い始めました。それで分かったのは、利休の侘びとは「枯れて寂しい」というものではなく、むしろ枯れた中に命の芽吹きを尊ぶことだったのです。

『利休にたずねよ』

利休にたずねよ』(PHP研究所)

 例えばお茶事の席でお花を生ける時には、ツバキの丸いつぼみを生けます。必ずツバキはつぼみを生けるのです。そこに命の芽吹きを感じさせる。

 それはただ単に枯れて暗い、命のない世界じゃなくて、むしろ枯れて寂しい中に命の芽吹きの美しさを感じさせるために、わざと周りを枯れさせるのです。

 有名なアサガオのエピソードがありますよね。たくさんあったのを全部取ってしまって、1輪だけ茶室に生けた。それと同じことだと思います。利休より少し前の茶人で、「侘び茶の創始者」とされる村田珠光の言葉に「藁屋に名馬をつなぎたるがよし」というものがあります。

 貧乏なところでも名馬が1頭いる、そういうのが素晴らしい。藁屋に駄馬ではダメだし、すべてが豪華でもいけない。貧しい中にあるからこそ、名馬が輝くということです。これを別な言い方をすると、「谷間の雪の中に芽吹いた春」です。

 利休の師である武野紹鷗の茶は、藤原定家の「見渡せば花も紅葉もなかりけり浦の苫屋の秋の夕暮れ」と表されます。

 これは非常に寂しい世界です。これに対して利休の茶を後世の人は、藤原家隆の「花をのみまつらん人に山ざとの雪まの草のはるをみせばや」と評しました。雪間から顔をのぞかせている若草。「命の芽吹き」こそが、その本質であるということを表した例えです。

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