4時間00分
近所の中華料理屋でのことだ。背中というか、ふくらはぎあたりに、不快な振動を感じていた。
後ろを振り返ると、小学生にあがったくらいの男の子が、足をブランブランさせていた。靴の踵が彼の椅子に当たり、背中合わせのワタシの椅子に響いてくるのだとわかった。なるほど。
コツン、コツン。
振動が止まない。止んだと思ったら、またはじまった。だんだん、向かい合わせのツレの話も上の空。イライラ。コツン、コツン。イラッ。コツン、イラッ!
椅子を引いてみたが、効果はない。止む気配もない。
コツン。注意してやろうと、振り返ると、4人がけのテーブルの、男の子の対面に座っていた若い母親が立ち上がり、「お父さんが、ここがいいっていうから来たんじゃないの」
何があったか知らないが、ここにいまいることが彼女を立腹させていたらしい。「もう!」と言うなり、幼い娘の手をひいて、店を出ていった。
テーブルには、男の子と、その祖父と思しき男性が残された。この気まずさをなんとかしようと思ったのか、黙り込んでいた男の子が、あのお笑いタレントはどうとか、早口にしゃべりだした。コツンもしなくなった。店のテレビのなかでは、どっと笑いが起きていた。
さて、『人はなぜ怒るのか』とタイトルにあるように、本書は、怒りのしくみを解明するとともに、怒りの感情はどのようにコントロールしたらいいのかを説いたものだ。
著者は心理カウンセラーで、プロフィールには、大手商社の人事部、弁護士秘書などを経て、2004年より現職とある。女性だと伏せがちな年齢も、1965年生まれと明記している。どうでもよさそうだが、けっこうここはポイントだ。都合の悪いことでも隠さない人かどうかの目安になる。
20代のころの著者は、通勤電車で足を踏んづけられるたび、知らんぷりの男に「謝ってください」と訴え、笑ってごまかそうとした男子学生には、説教までしていたという。
「今はおそろしくてとてもできません」と綴っているが、曲がったものを許せない性格だからこそ、自分が「なぜ怒るのか」あるいは「なぜ謝ろうとはしないのか」に興味をもったというのは、よくわかる。
人は、なぜ怒るのか。他人にイラツクのか。
電車の中のケータイ通話に、シャカシャカ音漏れのイヤホン。猛スピードですり抜けていく自転車。通りを塞ぐウンコ座りの高校生たち。イラッとするきっかけは、街に出ればいっぱいあふれている。
マジメそうな人が悪いことすると極悪人に見える法則
見た映画がツマラナイと、イラッ。待たされることに、イライラ。店員の無愛想さに、イライライライラ。
そんな怒りの原因を、著者は「不一致による違和感」あるいは「不公平感」にあると説明する。
〈要するに、怒りを感じるときというのは、「期待通りになっていない」「思い通りになっていない」という状況のときなのです〉
ツマラナイ映画を見たときの腹立ちはいうまでもなく、マナーの悪さにイライラするのも、相手に対して「こうあるべき」という期待が前提にあるから。メールの返事が来ないとイライラするのも、期待するから。
では、イライラしないために、どうすればいいのか?
答えは、簡単明瞭。期待しない。
相手を変えようとするのは大変だけど、自分を変えることはできるという。
たしかに。「怒り」はストレス反応によるもの。まじめな人ほど、つい「〜すべき」と考えがちだ。しかし「〜すべき」は、「〜してもらえない」という鬱積をうみだしやすい。
100点の答案を期待するから、そこに届かなかったぶんが「怒り」となる。だから、期待値を下げれば、イライラの度合いも下がるというわけだ。
逆に、相手に対する期待値をゼロにまで下げしてしまえば、どんなささいなことも喜びなる。たとえば、パンクロッカーが席を譲るのを見たりしときに、好感が増すように。あるいは、サラリーマンが歩きタバコをしていると睨んでしまうのに、よれよれのオッチャンなら見て見ぬふりをしてしまうのに似ている。
著者は、怒りは、弱さの表れでもあるという。
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