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幕府がなくなっても、こうして生き抜きました~『幕末下級武士のリストラ戦記』
安藤 優一郎著(評:尹 雄大)

文春新書、730円(税別)

2009年2月17日(火)

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幕末下級武士のリストラ戦記

幕末下級武士のリストラ戦記』 安藤 優一郎著、文春新書、730円(税別)

 明治維新を境に幕臣の運命は暗転した。福沢諭吉の言葉を借りれば「一身にして二生を経るが如く一人にして両身あるが如し」である。

 幕臣、福沢は文明開化のイデオローグとなった。彼ほどの教養と知性の持ち主であれば、文明に呼応することをもって、日々のたつきとすることもできた。だが、体制変革を政治、思想の見地からではなく、生計の問題として捉え格闘せざるをえない武士も多くいた。

 本著は、幕府瓦解に伴い放逐された下級武士、山本政恒が日々綴った日記をもとに編纂した自分史『政恒一代記』を、大奥をはじめ、江戸に関する書を数多く執筆している著者が解読したものだ。元来あまり着目されてこなかった下士の暮らしから、正史に記述されない歴史の襞を描きだそうとする。

 「リストラ戦記」の主人公、山本政恒は天保12年(1841)、江戸の御徒町に徳川家の直臣の三男として生まれた。直臣といっても将軍に拝謁できる資格を持たない御家人であった。だが、御家人には将軍の影武者を務める任がある。戦場で将軍は鎧の上に陣羽織を着るが、御家人もそれに倣い、進んで身替わりとなったのだ。

 大任の一方、生活は苦しく「屋敷内の土地を貸したり、野菜を作って自家用」とし、「家族も内職にいそしむ」のを常としていた。

 そうした御家人の暮らしぶりがわかるのも、政恒が筆まめであったからだ。三田村鳶魚の諸作や『幕末百話』に見られる闊達な描写と異なり、その筆致はあくまで実質に徹していた。彼に筆をとらせた原動力は、御家人の職務への誇りだろうか。将軍身替わり用の陣羽織まで、達者とはいえないものの、几帳面にスケッチしている。

 政恒は11歳で上野の寛永寺に奉公するため家を出た。著者にいわせると「口減らしのための奉公」であった。5年前のまずい古米を食べていた実家の暮らしと同様に、奉公先も食事は質素だった。ご飯に加え、朝は汁、昼は漬け物、夜は「油揚げ一枚、ひじき、切り干しの煮付け」だけ。

 だが、寺での暮らしがその後の政恒の性格を決定づけたようだ。一家を構えてからも「朝は早く起き、ご飯は自分で炊いた。味噌汁も自分でつくった」と著者がいうように、すべて自分で切り盛りする才覚を身に付けた。

口うるさい上司、職場いじめ、そして給与100%カット

 16歳になると山本の本家で算術の師でもあった山本安之進の三女・かんと結婚。婿養子に収まると正式に御徒(=徒士。馬上を許されない下級武士)として出仕するようになる。主な任務は江戸城内の警護であった。御徒の仕事はひたすら謹厳な姿勢で待つことに尽きた。

 たとえば、将軍に慶事があった際、城内で能を催し、諸大名や江戸の町人が招かれるが、御徒は大広間と舞台の間にある石畳にひたすら座り、将軍を護衛する。政恒はこれが苦役だったと漏らす。

〈何れも礼儀正しく、聊(いささ)かにても動かざるよう致すべくに付き、甚だ苦しき勤めなり(中略)番組の長きときは、足しびれ実に困難なり〉

 武士も現代人も正座の痺れは同じであった。加えて仕事の悩みも共通している。著者いわく「武家社会では何事も先例が第一」であり、政恒も、古参から何を命ぜられても「御無理御尤」、「一順たり共、上の者には勝てず」と諦めている。さらに、こんなことも記している。

〈一同の悪みを受ける時は、水稽古の時、教ゆる体にて水中へ押し込み、首を上ると又押し込み、(略)其苦しみ云ふ可からざる也〉

 上司や同僚の恨みを買うと水練の際、指導と称して沈められた。いつの世もパワハラ、職場いじめは付き物らしい。

 勤め人の苦労を味わう日々にも、幕府崩壊の足音は確実に迫り来た。情勢は政恒を時代の先端に押しやる。

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