• BPnet
  • ビジネス
  • IT
  • テクノロジー
  • 医療
  • 建設・不動産
  • TRENDY
  • WOMAN
  • ショッピング
  • 転職
  • ナショジオ
  • 日経電子版

「打出の小槌」の正しい振り方『福の神と貧乏神』
~徳のない富は持続しない

  • 澁川 祐子

バックナンバー

2009年2月18日(水)

  • TalknoteTalknote
  • チャットワークチャットワーク
  • Facebook messengerFacebook messenger
  • PocketPocket
  • YammerYammer

※ 灰色文字になっているものは会員限定機能となります

無料会員登録

close

福の神と貧乏神

福の神と貧乏神』 小松和彦著、筑摩書房、640円(税抜き)

 まずは昔話をひとつ。

 ――今は昔、信濃から出てきた命蓮という法師が東大寺で受戒したあと、河内国の信貴山に籠って厳しい修行をしていた。しばらくして聖は、厨子におさまるほどの小さな毘沙門天像を授かった。そこで小さなお堂を造って像を納め、さらなる修行に励んでいた。

 この山の麓には下種徳人(げすとくにん:卑しく貧しい身分の出の長者)が住んでおり、聖の鉢はいつもその家まで飛んで行き、食べ物などを入れてもらっていた。だがある日、いつものように鉢が飛んで行くと、家の者たちは米蔵を開けて忙しく働いている最中。「また例の鉢だ。いまいましく欲張りな鉢だ」と鉢を蔵の隅に投げ置き、そのまま蔵を閉じてしまう。すると突然、蔵がゆさゆさと動きだし、宙に浮いたかと思うと山の頂上に向かって飛んで行ってしまった――。

 これは、「信濃の国の聖の事」という物語の一場面である。日本四大絵巻の一つ「信貴山縁起」(13世紀、朝護孫子寺蔵)に描かれ、『宇治拾遺物語』や『古本説話集』にも収められている有名な話だ。

 小さな鉢が蔵を丸ごと持ち上げて、大空を飛んで行く。なんとまあ壮大な。漫画的なユーモアすら感じる。だが、この微笑ましい説話を読みながら、ふと思った。いまの日本は、まさに米俵満載の蔵が飛び去っていってしまったところではないか、と。

 アメリカ発の金融危機によって、株価はあっという間に下落。輸出頼みの企業の儲けは、円高で一瞬にして吹き飛んだ。いままで持っていたお金はいったいどこへ消えてしまったのか? いまの私たちは、まるで蔵が飛んで行ったあとの虚空を呆気に取られて眺めているみたいだ。

「福の神」の変化

 本書にはこの「信濃の国の聖の事」をはじめ、いくつもの昔話が登場する。そのどれもが「福」や「厄」に関するもの。福神信仰にまつわる昔話や芸能を拾いあげ、それらが時代や地域によっていかに広まったか、ひいては日本人の「幸せ」や「富」に対するイメージがどのように移り変わっていったかを辿る。著者は、鬼や妖怪、呪術、憑依などから日本人の心性を解き明かそうとしてきた民俗学者だ。

 福神信仰が広く普及したのは、中世。「福の神」として現代の我々にもなじみ深い「七福神」も室町時代末期にグルーピングされたという。当時圧倒的な人気を博していた恵比寿、大黒、そして平安時代から親しまれてきた毘沙門天がまずは文句なしに選出された。次に加えられたのが、唯一女性である弁才天。残りのメンバーについては異論もあったが、最終的には布袋、福禄寿、寿老人に落ち着いた。

 布袋、福禄寿、寿老人の三神が選ばれたのには、禅僧文化の影響があったという。当時、掛け軸や扇面には仙界、神仙的なものが多く描かれ、滑稽諧謔が好まれていた。そうした趣向を反映し、仙人然とした人物がランクインしたのである。金銭や食物など物質的な「富」を連想させる恵比寿や大黒がいまでも人気があるのに対し、長寿や円満、悠々自適を象徴する福禄寿や寿老人の影が薄いというのもなかなか意味深だ。

 さらに著者が注目するのは、福神たちは必ず「貧乏神」や「厄神」とセットで登場するという点だ。物語の主人公は、たいていが信心深く真面目で、正直者や孝行者である。そこへ福の神がやってきて貧乏神を追い払い、その家は富を得る。つまり、富を招きよせるためには厄を払わねばならず、そのためには勤勉や正直、努力といったそれなりのことが求められていたのだと強調する。

コメント0

「超ビジネス書レビュー」のバックナンバー

一覧

日経ビジネスオンラインのトップページへ

記事のレビュー・コメント投稿機能は会員の方のみご利用いただけます

レビューを投稿する

この記事は参考になりましたか?
この記事をお薦めしますか?
読者レビューを見る

コメントを書く

コメント入力

コメント(0件)

ビジネストレンド

ビジネストレンド一覧

閉じる

いいねして最新記事をチェック

閉じる

日経ビジネスオンライン

広告をスキップ

名言~日経ビジネス語録

日本の未来は、男性と同じ程度、女性のリーダーが作っていくものだと確信している。

ビル・エモット 英エコノミスト誌元編集長