「人生の諸問題」

NYで髪を切りに行って、耳を切られました

「リアル」と「訴訟」と「いじめ」と

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2009年3月13日(金)

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(番外編だったけど、前回から読む)

 この間、雑誌の取材で「リアルについて」という質問があって、そんな難しいことを僕は何年間も考えてないよ、と慌てちゃってさ。

小田嶋 リアルって、今の流行語じゃない?

クリエイティブディレクター 岡 康道氏

クリエイティブディレクター 岡 康道氏 (写真:大槻 純一、撮影協力:「Cafe 杏奴」)

 そうなの?

小田嶋 うん。それはリアルだよね、とか、KAT-TUNの亀梨ライクな言葉だよ。そんな知的に考えるほどの言葉じゃない。

 昔、流行ったじゃないか、実存主義というのがさ。

小田嶋 いや、それじゃなくて、亀梨カテゴリー。

 亀梨? サルトルじゃなくて?

小田嶋 サルトルじゃない。

―― なまじ教養があるがゆえに答えられなかったんですね。

 答えられなかったから、思わず弟に電話しちゃったもん。(「無責任なり、60年代野郎!」参照)

―― そして、ますます違うものになっていった、と。

 結果として、まったく、ずれちゃった恐れは確かにある。

引っ越しを繰り返し、離婚もした自分にリアルはあるか?

小田嶋 DAIGOがよく語っている、ガチで、とかいうのとそんなに変わらないよ、ニュアンス的には。それはガチだと思いますか、と聞かれたら、まあ、ガチじゃないですか、と答える、みたいな。

 ガチってなに?

小田嶋 ガチというのは、ガチンコでということだから。

 一生懸命?

小田嶋 もろにとか。マジでとか。

 露骨にとか?

小田嶋 そうそう、露骨にとかね。まあ、ウェブとリアルみたいな対比で、リアルと言う人もいっぱいいますけどね。

 そっちの対比でいうリアルって、もう100万人が話しているから、つまらないじゃない? そうじゃなくて、例えば終身雇用制とか、家族主義とか、地域共同体とか、昔は人間をがんじがらめにするシステムがあって、それが故に人は役割を演じざるを得なかった。だから、リアルとかリアルじゃないとかいう議論なんて起こる余地もなく、人はリアルに生きていたわけだ。ところが、今はそういうものが全部崩壊した。じゃあ僕は何をしてリアルと規定するのか、と困ってしまって。まあ、小田嶋は今も昔も赤羽に住み続けて、地域にはこだわっているけどね。

小田嶋 うん。

 離婚もしてないしさ。

小田嶋 うん。

 でも僕なんか、佐賀から出てきて、って、それは親が出てきたんだけど、でも親たちと東京近郊を転々として、就職した会社も辞めちゃって、離婚もしちゃったから、リアルなものを手にした、あるいはする、というような感覚がないんだよ。

小田嶋 それらを岡は自分で壊したわけでしょう、言わば。

 確かに自分としてはのっぴきならない理由のもとに、そこから出ていった、とも言えるから、そこには、やっぱりリアリティはあるんだけど。

子どもたちを責めないで

コラムニスト 小田嶋隆氏

コラムニスト 小田嶋隆氏

小田嶋 ややっこしいよね。作るよりも壊す方にリアリティがあるというんだから。

 危ないのは、それを見ていた子どもたちの方だよね。親が会社を辞めていく様子を見ていた僕の長男は、今度就職が決まったんだけど、会社に一生勤めるなんて、はなから思ってないみたいで、非常に不安定な感じが最初からある。

 それから家庭というものも、彼にとってはそうだ。おやじたちが壊れていったんだから、自分が壊さないという保証はない。と、彼は思っているだろう、口になんか出して言わないけど。僕自身も相次ぐ引っ越しなんかで、地域共同体の役割なんて、まったく持ち得なかったから、そういう半生の中で、リアルの喪失は確実に経験したんだよね。話はそんな方向に行ったんだけど。

小田嶋 なるほどね。でも、そんなすごいテーマじゃないよ、リアルって。

 そんな簡単なのか。

小田嶋 だってあいつの歌、ほら、KAT-TUNのデビュー曲で、リアルを探す何とかなんだという歌詞があったじゃない?

―― よくそんなの聴いていますね。

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著者プロフィール

岡 康道(おか・やすみち)

岡 康道

クリエイティブ・ディレクター、CMプランナー。
1956年生まれ。80年早稲田大学法学部卒業後、電通に入社。CMプランナーとしてサントリー「BOSS」「南アルプスの天然水」、JR東日本「その先の日本へ。」など、時代を代表するキャンペーンを手がける。97年、JAAAクリエイター・オブ・ザ・イヤー受賞。
99年に日本最小最強のクリエイティブ・エージェンシー「TUGBOAT」を川口清勝、多田琢、麻生哲朗とともに設立。主なクライアントに、サッポロビール、大和証券、富士ゼロックス、リクシル、NTT東日本、大和ハウス、NTTDoCoMoなど。TCC最高賞、ADC賞、ACC賞、ニューヨークADC賞、クリオ賞など受賞多数。TCC会員、ニューヨークADC会員。現在、雑誌ポータルサイト「magabon」にて、エッセイ連載中。近著に「ノンタイトル」(電子書籍)

清野 由美(きよの・ゆみ)

ジャーナリスト。
1960年生まれ。82年東京女子大学卒業後、草思社編集部勤務、英国留学を経て、トレンド情報誌創刊に参加。「世界をまたにかけた地を這う取材」の経験を積み、91年にフリーランスに転じる。国内外の都市開発、デザイン、トレンド、ライフスタイルを取材する一方で、時代の先端を行く各界の人物記事に力を注ぐ。『アエラ』『朝日新聞』『日本経済新聞』『日経ベンチャー(現・日経トップリーダー)』などで執筆。著書に『セーラが町にやってきた』(プレジデント社)、『ほんものの日本人』(弊社刊)、『新・都市論TOKYO』『新・ムラ論 TOKYO』(集英社新書・隈研吾氏と共著)『「オトコらしくない」から、うまくいく』(佐藤悦子氏と共著・日本経済新聞出版社)など。

小田嶋 隆(おだじま・たかし)

小田嶋 隆

1956年生まれ。東京・赤羽出身。早稲田大学卒業後、食品メーカーに入社。1年ほどで退社後、小学校事務員見習い、ラジオ局ADなどを経てテクニカルライターとなり、現在はひきこもり系コラムニストとして活躍中。近著に『人はなぜ学歴にこだわるのか』(光文社知恵の森文庫)、『イン・ヒズ・オウン・サイト』(朝日新聞社)、『9条どうでしょう』(共著、毎日新聞社)、『テレビ標本箱』(中公新書ラクレ)、『サッカーの上の雲』(駒草出版)『1984年のビーンボール』(駒草出版)などがある。 ミシマ社のウェブサイトで「小田嶋隆のコラム道」も連載開始。



このコラムについて

人生の諸問題

日本語は今や、ウェブ上で全世界でもっとも流通している言語だといわれるまでになった。しかも、読む人間より、書く人間の方が圧倒的に多いのだという。それほどまでに人々が文章を書いている一方で、相手に何かを伝えることの難しさは、むしろ増えているように思える。「誰もが発信者」、そんな史上初のシチュエーションを迎えた今、いったい私たちの「コミュニケーション」はどこに行くのだろう。広告の世界でクリエイティブディレクターとして活躍する岡康道氏と、コラムニストの小田嶋隆氏が、高校時代の同級生という縁から始まった「伝達」について、ゆるゆると語り尽くす…はずだったのだが?

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