「シネマde青春」

番外編“戯れ言フルスロットル VOL.1 ”

――強い女性の話、しようか

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2009年2月20日(金)

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 気がつくと、ほんのりと梅の香が匂う季節になっている。

 春なのだ。陽光が柔らかく感じられ、心なし頬を撫でる風さえ優しいような気がする。
 そして、いかんなぁと私は溜まりに溜まった仕事の山にため息をつく。

 ただでさえ私は仕事が遅い。遅れた仕事が次の仕事、その次の仕事へのとっかかりをどんどん遅くする。前倒しの反対だ。こういうのを踏み倒しと言うのではないかと思ったりもするのだが、思いっきり違っているような気もする。

 しかし悪い連鎖だ。本来なら終わらせていなければならないはずの時期に、やっとその仕事に着手するというような事態がずっと続いている。あちこちの飲み屋でツケが溜まるのと一緒だ。するとどうなるか――? 催促という名の矢を四方から放たれ、終わらせているべき仕事を終わらせるために、大型連休や盆暮れ正月の休みを返上するはめになる。

 昨年末もそうだった。

 年末に尋常じゃない量の溜まった仕事をこなし、そのせいで正月休みをとることもままならなかった。それでもさばききれずに、しわ寄せはいきなり年明けの仕事に停滞をもたらした。何本か仕事をキャンセルしてもまだ当初の予定に追いつかない。

 仕事が遅れているのに、私は追われているのだ。遅れているのに追われている。追いつかないのに追われるとはいったいどういうことだ。愚痴のひとつもこぼしたくなる。やるべきことがありすぎて、片づけても片づけても終わらないのだ。

 私の中では木枯らしが舞ったのがつい昨日のことのように思えてならないが、気がつくともう立春も過ぎていて、ほんのりと梅の香が匂う季節になった。もう春なのだ。

 いかんなぁ――、口の中でまた呟く。春なのに。

 どうしてこんなに仕事が溜まるのだろう。やるべきことをとっととやってしまえば楽になるとわかっていながら、なかなか仕事に身が入らないのが原因か。でもエンジンがかからない。かかってもすぐにガス欠みたいに気が抜けてしまう。そうして、ずっと端末とにらめっこを続けている。

 寝不足が続くせいなのかとも思う。それとも、めっきり春めいてきた陽気のせいだろうか。

 いかんなぁ。ぜんぜん仕事がはかどらない。

 壁の時計を見やれば、うまい具合に午後三時。コーヒーブレイクにいたしますか。

 そして、私はふらりといつもの店を訪れる。店の名前は、喫茶ポイズン――。

*   *   *

 オンライン通りと呼ばれる小径にその喫茶店がオープンしたのは昨秋のことだ。

 そこはオフィス街が近いわりには静かな場所で、だから気分転換や休憩で訪れる客も多いようだ。オフィスをひょいと抜け出してきたらしいビジネスマンの姿もよく見られる。だから、店内はいつも“それなり”に賑わっている。一時期などは店内に入りきれないほどの客が押し寄せたこともあるとのことだ。そのときは“クレーム”をつけにきた客が大半だったらしいが。

 私は、仕事を抜け出してはその店を頻繁に訪れている。つまりは常連客というわけだ。

 コーヒーがそれほど美味いというわけではないが、何故か癖になるのだ。

 何しろマスターと呼ばれる人がいい加減な性格で、ひどいときにはモカを頼んだらキリマンジャロが出てくるといったいい加減ぶりだ。頼んだものと違うじゃないかと言うと、店主は意味ありげににやりと笑う。気づかないままでいても、店主はやっぱり思わせぶりににやにやしている。性悪なのである。

 いい加減な性格はコーヒーの煎れ方にそのまま表れていて、この店のブレンドコーヒーは店主の気分で濃さや味が違うのだ。ときには辛かったり、しょっぱく感じるようなときもある。同じ味のコーヒーを出せないのかなどと言おうものなら、いまいろんな味を“試して”いるところだ、文句を言うなと返してくる。

 いい加減なくせに、うるさい店主なのだ。

 というよりは、わかりやすいほどの気分屋。

 口と手際の悪さと計画性のなさだけは天下一品。

 気分がのらないと何もしない、単なるわがまま中年。

 本当のところは、仕事と遊びの区別がつかないだけなのかもしれない。

 黒犬嫌いの白犬好き。オ×マ嫌いのダジャレ好き。話にオチなし落ち着きなし。

 困ったことに、私は何だか自分のいい加減ぶりを見ているような気がしてならないのだ。

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著者プロフィール

降旗 学(ふりはた・まなぶ) 

ノンフィクションライター。1964年、新潟県生まれ。神奈川大学法学部卒。英国アストン大学留学。96年、第3回小学館ノンフィクション賞・優秀賞を受賞。主な著書に『残酷な楽園』『敵手』『松坂大輔 証明』他、剣崎学のペンネームで書いた『都銀暗黒回廊』など。
近著は『草野球をとことん楽しむ』(新潮新書)。 本ウェブ連載「長目飛耳」をまとめた『世界は仕事で満ちている』(日経BP社)



このコラムについて

シネマde青春

趣味は楽しむから趣味なのだ。映画もまた、楽しんで観るから娯楽なのだ。たくさん観ているからといって偉いわけじゃない。要は、楽しめたかだ。それがいちばん正しい映画の見方だと私は思っている。・・・それでも、映画を観るたびに考えさせられることや勝手に学んだつもりになることは多々あって、何年経っても忘れられない場面もあれば、解釈の仕方ひとつで何気ない台詞に影響を受けたり、その台詞を借りて自分を励ましたり勇気づけたこともある。だから映画は面白いのかもしれない。そうした場面や台詞を拾い上げながら、私なりに感じたことを徒然に、道草を食いながら綴っていこうと思う。

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