「書物漂流」

時にはエコを!環境エンリッチメントとは

『キリンが笑う動物園 環境エンリッチメント入門』 上野吉一著 岩波科学ライブラリー 1200円(税抜き)

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2009年2月20日(金)

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『キリンが笑う動物園 環境エンリッチメント入門』 上野吉一著

『キリンが笑う動物園 環境エンリッチメント入門』 上野吉一著

 キリンが笑うとは、比喩的な言い方であって、キリンが満足するときの気持ちを代弁したものだ。まさかキリンが大口を開けてゲラゲラ笑うわけではない。著者は名古屋の東山動物園に勤める動物飼育企画官である。専門分野は動物福祉学という。動物園で日常的に接する展示動物たちの福祉を企画し、実施するのが仕事である。

 ナイロビを一度旅行したことがあるが、そのとき優雅にサバンナを歩く数十頭のキリンを見た。首を伸ばしたままの姿勢で、高いところの木の葉を食べていた。これこそが適応と進化だ、と妙に感心したことがある。

 動物園のキリンは、給餌場にある食べ物を首を下に伸ばして、脚を不自然に開いて食べざるを得ない。いかにも、キリンにとってストレスがたまる姿勢だ。この状態は動物福祉に反する、と上野はキリンの首に会わせて給餌用の高い餌かごを作った。キリンはサバンナにいるときと同じ姿勢で餌を食べている。この時、キリンが笑った、と著者は感じた。これこそが動物園の動物の環境エンリッチメントなのである。

 小動物のリスにだって、森の中に住んで木の実をかじっている感じを与えるために、材木を複雑に組んだジャングルジムを作ってあげる。

 動物園でいちばん惨めなのは、展示されている動物たちの心が落ち込んでいる、と感じるときだ。動物たちがみな生き生きとしていると、見物する人たちの心も和む。

 60年ほど前、小学校の遠足で上野動物園に行ったことがあるが、そのころ動物たちは何か惨めな気がした。飼育場の片隅に身体を寄せているのを眺めて、クマだトラだといわれても、ふーんそんなものか、といった気しかしなかった。

 今、動物園では環境エンリッチメントが素晴らしい勢いで進行している。北海道の旭山動物園は、今日本でいちばん入場者数が多い動物園だ。ここが人気を呼んだのは画期的な「行動展示」を取り入れたからだ。「ペンギンが空を飛ぶ」という旭山動物園再生の映画が公開されている。観覧者は水槽のトンネルの中から、ペンギンが泳ぐ姿を見る。よちよち歩きのペンギンが生き生きと勢い良く水中を泳ぐ姿は爽快だ。

 動物園は進化している。著者は動物園のさらなる発展のために、動物学のアカデミズムの牙城にすべきだ、と提案している。諸手を挙げて賛成する。展示されている動物たちのために。そしてストレスに悩まされている現代人たちは、ストレス減少の方策を見出すことだ。それこそが、現代人の環境エンリッチメントなのです。

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著者プロフィール

松島駿二郎
(まつしま しゅんじろう)

松島駿二郎

海外ガイドブックなどの取材、編集歴30年、訪問国と地域は100以上。主要な著書に「ケルト紀行」(JTB)、「ショショニ族の魂」(筑摩書房)、「鎖国をはみ出た漂流者」(筑摩書房 )、「タスマニア最後の女王トルカニニ」(草思社)、「異国船漂着物語」(JTB)など。

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