現代を代表する日本料理の料理人である西健一郎さんの話を伺って、料理に対する観念が変わった。高級料亭というのは高価な食材を使って、それを食通に食べさせるものだと思っていたが、そうではないのだと。
今の経済状況において、高級なもの、ラグジュアリーなものと、人としてちゃんと生きるということは乖離しがちである。西さんのお話をうかがうと、それは同じことであると感じる。ナスのヘタや野菜の皮など、普通なら捨ててしまうようなものまで大切に使い、手間をかけてその素材が本来持っているポテンシャルを引き出している。
そういう気持ちでやっていれば、料理は決して一部の人たちのものではない。
西さんは「奥のある味」を目指している。すっと記憶に残る後を引く味である。ただ「おいしい」とその場限りで終わってしまうものではなく、「あの時のあの味」と思われるようなものだ。
これは大変深い話である。脳の中で整理しきれない、消費しきれない情報である。整理できてしまうと、「これはこういう味」ということで終わってしまう。映画や小説でも、一時「面白かった」で終わってしまうものと、そこに帰っていくたびに発見があるものがある。
西さんのお父さんは、伝説の料理人と呼ばれる西音松さん。西さんは30歳で独立し、各界の著名人からも評価を受けるようになった後で、このままではさらに先に進めないと自覚して、お父さんに土下座して教えを乞う。そこから10年以上、お父さんとともに料理を探求しつづけた。
自分が知らないことを自覚する「無知の知」。現代に一番欠けているものはまさにそれだと思う。すごいものに出合っても、それに気づかない人が多い。分からないことが多いし、分かったとしても、私には関係ないだとか、どうせ自分はダメだというようになげやりになってしまう。
そういう意味で言えば、お父さんの西音松さんもすごいけれど、その料理をあらためて見たときに、自分とはまったくレベルが違うと分かったことが素晴らしい。「無知の知」を持っていると、真摯な態度で追いかけることができる。それが西健一郎さんの優れた資質だった。
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