皮膚は生命の発達段階のごく初期に現れる。とすれば、皮膚は単にバリア機能をもつだけでなく、脳や感覚器と同じような働きがあると考えても不思議ではない。前編では、案外知られていないそうした皮膚の能力について傳田光洋さんにうかがった。
後編では、最新の研究をもとに「皮膚の知覚している世界」をうかがう。目には見えないもの。耳には聞こえないもの。どうやらそういうものまで皮膚は察知しているらしい。
−−前編では、皮膚が脳や末梢神経を介さずして、情報処理や状況判断を行っているとお話いただきました。さらに現在の研究で明らかになってきた皮膚の能力には、どういうものがありますか?
傳田:最新の研究で、皮膚が色を識別するらしいことがわかってきました。これまでの実験でも、皮膚の角層バリアを壊してから、そこにLED(発光ダイオード)の赤い光を照射するとダメージからの回復が早くなり、青い光を当てると回復が遅くなることはわかっていました。同様の結果は、神経も血管もない培養した皮膚を使った実験でも得られていました。
傳田光洋(でんだ・みつひろ) 資生堂新成長領域研究開発センター主任研究員。1960年、神戸市生まれ。京都大学工学部工業化学科卒業。同大学院工学研究科分子工学専攻修士課程修了。94年に京都大学工学博士号授与。カリフォルニア大学サンフランシスコ校研究員を経て、02年より現職。主な著書に『皮膚は考える』(岩波書店)『第三の脳』(朝日出版社)。
日焼けすると肌がひりひりと火傷を起こすように、皮膚が紫外線に反応することは知られています。不可視の光線を皮膚は識別しているわけです。実は皮膚は目に見える光もちゃんと識別しています。
人は波長の長短を色として感じていますが、色を識別できるのは、網膜にあるタンパク質「オプシン」のおかげです。波長の長い赤い光を受容するオプシンもあれば、短い青い光を受容するオプシンもあります。どうやら、それが人の表皮にも存在しているようなのです。皮膚のオプシンの遺伝子配列の一部が眼の網膜と一緒だということもわかりました。しかも、光の明暗を感じるタンパク質である「ロドプシン」も表皮に存在するのです。
紫外線・赤外線を感じるのだから……
−−人間は目だけでなく、肌で色を認識しているわけですか?
傳田:皮膚は視覚とは違ったシステムで色を感じているとは言えそうです。考えてみると、皮膚が紫外線や赤外線を感じていながら、可視光を識別していないというほうがおかしい。紫外線や赤外線と可視光の境界は、あくまで人間の見る能力がつくっています。ただ、前者の光が人の目に見えないだけで、光そのものに境界は存在しない。
人間は目には見えないけれど、自身を取り囲む環境因子を皮膚で感覚していると考えても、そう不思議なことではありません。
−−しかも垢になって剥がれ落ちるような皮膚の表皮部分が、そのような感知を行っているわけですね。
傳田:表皮のセンサー機能の精度を保つには、しょっちゅう表面を入れ替えないといけない。だから垢として落としているのです。
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