「夫の代わりに、ウツになりました。今、闘病生活を送っております」
これは大学時代の友人S子から来た年賀状に書いてあった、なんともショッキングな近況報告である。ウツ? しかも夫の代わりって…?
実はこれ、スピルオーバーという現象で、正確には夫(妻)のストレスが妻(夫)に伝染する状態をいう。
スピルオーバー(余剰・余波)とはもともと、電波が目的の地域外まで届く現象のことを指す言葉だが、心療内科では、職場でのストレスと家庭でのストレスがそれぞれの界面を超えて相互に影響を及ぼす現象を表す。1990年代以降、欧米を中心にスピルオーバーに関する実証研究は急速に増えている。
スピルオーバーには、ネガティブなものとポジティブなものがあり、ポジティブな面に着目したのがワークライフバランスなどである。
明るかった彼女に、夫のストレスが伝染…?!
さて、そんなスピルオーバーを、ウツという最悪の状態で経験した友人S子。学生時代、誰よりも明るく元気だった彼女が、ウツ状態に陥るとは信じ難く、早速コンタクトを試みた。久しぶりに聞く彼女の声は、想像以上に元気だった。そして「今は割と状態いいから」と、ウツになったいきさつを話しだしたのである(このことから、彼女はウツ病ではなく、抑うつ状態だと思われた)。
きっかけは、2年前の夫の異動だった。課長職昇進に伴い、新しい職場に移ったのだが、その部署はやたらと残業が多く、全く余裕のない生活が始まった。しかし、責任や裁量権を持たされた夫はやる気満々で、多忙でも元気そうに過ごしていたそうだ。
ところが異動から半年経った頃、夫に変化が訪れた。過重労働からか体重が減り、白髪が増えた。そして、それまで滅多に愚痴を言うことなどなかったのに、毎晩、愚痴をこぼすようになったのである。S子自身も仕事をしていたので、職場での大変さはよく分かる。よほどストレスがたまっているのだろうと、彼女は夫の愚痴の受け皿となって、毎晩、愚痴につき合ったそうだ。
そんなある日、S子は会社でトラブルがあり落ち込んでいたこともあり、いつものように愚痴を言う夫に、つい「そんなに愚痴ばかり言うんだったら、会社辞めればいいじゃない」とつっけんどんに言ってしまった。
その瞬間、2人の間の空気が凍りついたのを感じ、S子はとっさに後悔したそうだ。しかし、時すでに遅し。夫は、何も言わずに自分の部屋に入ってしまったのだ。
翌朝、夫は何事もなかったようにS子に接した。S子もいつも通り、夫と一緒に朝食を食べ、2人はそれぞれ会社に出かけた。
ところがその日を境に、1つだけ夫の行動に変化があったのだ。それまで毎晩言っていた愚痴を、その晩から一切吐かなくなったのだ。いつも通り帰宅し、普通に会話もするのだが、会社の話を全くしなくなったのである。
うつってうつると思います。私も複数の職場で立て続けにうつの方と接する機会があり、自分もうつ状態になりました。ですから、現在でも非常に不安定です。(2009/03/13)