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「おくりびと」を見に行く、その前に読もう~『高齢者医療難民』
吉岡 充・村上 正泰著(評:山岡 淳一郎)

PHP新書、700円(税別)

  • 山岡 淳一郎

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2009年3月9日(月)

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高齢者医療難民──介護療養病床をなぜ潰すのか

高齢者医療難民──介護療養病床をなぜ潰すのか』 吉岡 充・村上 正泰著、PHP新書、700円(税別)

 遺体を清め、棺に納める納棺夫を描いた映画「おくりびと」が、話題をさらっている。こうした仕事が注目されるのは、死が社会的に身近な存在になってきたからでもあろう。平成19年度版厚生労働白書によれば、2005年の年間死亡者数は108万人だが、2015年には130万人、2040年にはなんと166万人に達すると推計されている。

 高齢社会とは世間全体で大勢の死を受けとめねばならない社会でもある。

 大多数の人にとって、死は日常の延長上にある。日ごろ介護を必要とせず、自立して生活できる「健康寿命」は、日本人の男性72.3歳、女性77.7歳。統計的にみれば、それから約7~8年、男女とも病院にかかったり、介護ケアを受けたりしながら黄泉へと旅立つ。

 人間は、100パーセント死ぬ。高齢者の医療や介護は、人生の集大成を支える大切な役割を担う。「おくりびと」のお世話になるまえにたくさんの人の手が必要なのだ。

 ところが、厚生労働省は、近年、誰もが避けて通れない、この道行きを壊す「姥捨て政策」を次々と講じてきた。その典型が大幅な「療養病床の削減」である。

 本書は、高齢者医療現場で多くの難題に取り組んできた医師・吉岡充氏と、財務省から厚労省に出向して当の療養病床削減の計画をつくった元官僚・村上正泰氏の共著。高齢者医療のプロと政策立案の専門家による告発の書として読める。国民から見えにくい政府内の事情も記されており、説得力がある。志の高さが伝わってくる。

 療養病床削減問題は、以前、わたしも取材し、雑誌(週刊ダイヤモンド2006年7月15日号)に書いた。まず、制度のあらましを押さえておきたい。

 そもそも療養病床とは、病院や診療所のベッドのなかで、長期療養を必要とする患者を入院させるための医療施設。このうち介護保険が適用されるものを「介護療養病床」、医療保険適用のものが「医療療養病床」といわれ、病気を患い、ケアを受けながら生活しなければならない高齢者の大きな受け皿になっている。

 一方で、療養病床は、治療の必要性は低いのに退院後の受け入れ先がないなどの理由で留まる「社会的入院」の温床ともいわれた。社会的入院が増えれば、国民医療費が押しあげられる。不必要な入院でベッドがふさがれば緊急の患者を受け入れにくくなる、と懸念される。

重度の要介護者が病院から追い出されていく

 2005年12月、厚労省は、突如、13万床あった介護療養病床を2012年度までに全廃し、25万床の医療療養病床を15万床に削減すると発表した。トータルで一気に23万床も減らすというのだ。その目的は公的医療費の伸びの抑制である。

 当然、多くの高齢者患者が病院から追い立てられる。どう対処するのか?

 厚労省は、社会的入院中の高齢者を病院と介護施設の中間的機能を持つ「老人保健施設」などの居住系施設に移せばいい、との見解を示した。そして「社会的」か否かを判断する基準として「医療区分1~3」という考え方を持ち出してきた。

  • 医療区分3=医師や看護師による24時間監視体制が必要で、気管切開や酸素呼吸器などの処置がなされているような状態。
  • 医療区分2=肺炎や肺気腫、せん妄の徴候などがみられ、経管栄養や喀痰吸引、気管切開などのケアが求められるような状態。
  • 医療区分1=医療区分2、3に該当しない者。

 厚労省は、簡単なサンプル調査で介護療養病床は「医療区分1」の患者が多いと解釈し、ゼロにすると断を下した。考えてもみてほしい。全体で23万もの病床を削るのに、その根拠がわずか三種類の医療区分なのだ。医療難民が出るのは火を見るより明らかだった。

 翌2006年2月、病床の大削減が盛り込まれた医療改革関連法案が国会に提出される。自民党内からも強い反発が出るなか、介護療養病床の全廃が明記された法律が成立。しかも「医療区分1」の患者を抱えた病院は損をする診療報酬の改定まで行われた。経営的にも「医療区分1」の患者は吐き出すしかない。なにが何でも高齢患者を病院から追い出そうとしているようだった。

 高齢者医療の第一線で医師として体を張ってきた吉岡氏は、「医療区分1」イコール「社会的入院」とする厚労省を「デマゴーク」と断罪し、介護療養病床の実態をこう述べる。

〈介護療養病床に入院している患者の要介護度は、全国平均で要介護4・3くらいです。(中略)介護を少し知る人であれば、相当に重度で、多くの介護を必要とする人だということがおわかりいただけるだろうと思います。寝たきり、あるいはほとんどそれに近かったり、認知症も重かったり、自分の身のまわりのことはほとんどできない状態です〉

 介護療養病床の患者は〈いくつかの持病を抱えもち、いつ急変するかわからない〉状態だ。医療と介護は分けられず、医者や看護師、リハビリテーションのスタッフたちが、毎日のケアをつづけて状態の増悪(ぞうあく)や急変を防いでいる。医療処置も必須なのだ。

 このような高齢患者が病院から放り出されたらどうなるか。

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