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『品格』とか言いたかったら、これを読んでから~『幸田家のしつけ』
橋本敏男著(評:清野 由美)

平凡社新書、740円(税別)

2009年3月18日(水)

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幸田家のしつけ

幸田家のしつけ』 橋本 敏男著、平凡社新書、740円(税別)

 抽象的な言い方になるが、娘とは「母が育てる」ものであり、息子とは「父が育てるもの」ではないか、と、日ごろ、各界で活躍する多くの「娘」と「息子」たちに接していると、つくづくそう思う。

 つまり人間も、その根幹には生物的な性別ラインが敷かれている、ということなのだろう。

 しかし世の中には、いろいろな事情で、性別による割当ができない環境に置かれる「娘」と「息子」も多い。文筆家の幸田文はまさしくその例で、「母の娘」ではなく「父の娘」として育った人物だ。

 父は明治の文豪、幸田露伴。露伴の最初の妻が文の生母だが、彼女は文が6歳の時に病気で亡くなる。その2年後に露伴は継母と再婚するが、継母は実母と違って家事に疎く、家庭生活はなかなかに難しいものだった。

 となると、家事を担うのは娘の文の役割になる。こうして文は、まだまだ夢想にふけりたい思春期のうちから、掃除、洗濯、食事など生活一切をまわすしつけを、父から受けざるを得なくなった。

 同じく文豪を親に持ち、文筆で名を残した「父の娘」としては、エッセイストの森茉莉の例もあるが、茉莉は生涯、家事ができない人だった。文と茉莉の違いは作品に如実に表れているが、同時にそれは、父としての露伴と鴎外の違いともいえる。鴎外は娘に夢想を許しまくり、その結果、娘は大人になっても現実の生活がおぼつかなかった。一方、露伴は娘に夢想ではなく現実を教えた。

 なぜかというと、露伴自身が現実の中で生きる術を磨いた男だったからだ。7人兄弟の4番目、貧乏暮しの中で育った露伴は、朝晩の掃除、米とぎ、洗濯、火炊き、と何でもやった。というか、このくらいは家事として序の口で、さらに、ふき掃除、障子貼り、まき割り、庭の草取り、と、とにかく本当に何でもやった。娘をしつけるにあたっても、肌身に染みたノウハウがあったのだ。

たとえば、ぞうきんの絞り方

 露伴と鴎外。パパに持つには、どっちがいいか、ちょっと迷うところだが、ともあれ、文は「父からしつけられる」運命に生まれたのだった。

 では露伴が文に授けたしつけとは、どういうものだったか。そのスピリッツがよく分かるひと言が本書に収められている。

〈水は恐ろしいものだから、根性のぬるいやつには水は使えない〉

 さりげないものだが、確かにこれは家事を知り尽くした人でなければ、出ない言葉だ。

 たとえば私も経験から知っているが、水仕事をやりつけない人間は、台ふきんをきりっ、と絞り上げることをしない。これは腕力のあるなしに関係ない。むしろ大の男が絞ったふきんの方が、へなへな、べしょべしょとして、使い物にならないことが多い。そういう事態に接すると、いくら仕事でぶいぶい言わせていようとも、「なーんだ、たいしたことないじゃん、ぷぷ」と、相手を瞬時に軽く判断してしまう。露伴的に言うと、ぬるい根性の持ち主として、敬意を払わなくなるのだ。

 露伴が文に伝えるノウハウは、スピリッツだけでなく、ディテイルも徹底している。

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「『品格』とか言いたかったら、これを読んでから~『幸田家のしつけ』
橋本敏男著(評:清野 由美)」の著者

清野 由美

清野 由美(きよの・ゆみ)

ジャーナリスト

1960年生まれ。82年東京女子大学卒業後、草思社編集部勤務、英国留学を経て、トレンド情報誌創刊に参加。「世界を股にかけた地を這う取材」の経験を積み、91年にフリーランスに転じる。2017年、慶應義塾大学SDM研究科修士課程修了。英ケンブリッジ大学客員研究員。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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中谷 巌 「不識塾」塾長、一橋大学名誉教授