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ヤツらにまつわる事実と仮説~『真実のビートルズ・サウンド』川瀬 泰雄著・蔭山 敬吾編、『ビートルズの謎』中山 康樹著(評:栗原 裕一郎)

学研新書、講談社現代新書、どちらも760円(税別)

  • 栗原 裕一郎

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2009年3月19日(木)

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評者の読了時間取り上げた本全部で3日ほど(音源再聴の時間含めて)

真実のビートルズ・サウンド

真実のビートルズ・サウンド』 川瀬 泰雄著・蔭山 敬吾編、学研新書、760円(税別)

ビートルズの謎

ビートルズの謎』 中山 康樹著、講談社現代新書、760円(税別)

 「『ビートルズ名曲冒頭の音の謎』を数学者が解明」という記事が昨年11月「WIRED VISION」に出た。

 ダルハウジー大学(カナダ)の数学者ジェイソン・ブラウン博士が、ビートルズ「A Hard Day's Night」のイントロで鳴る、長年謎とされてきたあの印象的な不協和音を、フーリエ変換と画期的な波形編集ソフト「ダイレクト・ノート・アクセス」を駆使して解析したという内容である。

 ところが博士の解析に、翻訳者でライターの高森郁哉氏が同日(!)同じ「WIRED VISION」に「ナイストライだが、たぶん不正解」という反論を出したのだった。

 たかがコードひとつが世界的な話題になるなんてビートルズなればこそだが、ふたつの記事が出たのと前後して、新書のほうでも、ビートルズの謎をひもとく本が2冊出版された。

 川瀬泰雄『真実のビートルズ・サウンド』(学研新書)と中山康樹『ビートルズの謎』(講談社現代新書)がそれだ。今回はこのふたつを読み較べてみることにしたい。

 川瀬氏『真実』は、ビートルズの代表的な曲を取り上げ、サウンドに限定して真相を究明しようとしたものだ。対して中山氏『謎』は、諸説絶えないビートルズ現象の真相に迫ることを目的とした一冊である。

 中山氏はこの本に先だち、『これがビートルズだ』(講談社現代新書、2003年)というビートルズ全213曲をすべて論評した新書も書いている。川瀬氏『真実』に対置されるのは本当ならこちらなので、『これが』も併せて見ていくことにしよう。

絶対にスルーできない1冊のビートルズ本

 その前に、高森氏の記事にちょっと戻る。ブラウン博士は解析によって、あのコードにはジョージ・マーティン(ビートルズのプロデューサー)が弾いたピアノの音が含まれているという結論を導いているけれど、高森氏は、そんなことは「ビートルズのレコーディング記録をまとめた書籍など」に書いてある、以前からわかっていた事実だと一蹴した。

 「ご苦労なことです」という皮肉もあったろうが、ここで指摘されているのは、「多重録音はされていない」という誤った前提なども含めた博士のサーベイ不足である。

 「ビートルズのレコーディング記録をまとめた書籍」というのは、英EMIがオフィシャルと認めている、マーク・ルウィソーン『ビートルズ・レコーディング・セッション』(内田久美子訳、シンコーミュージック、1990年。原書は1988年)のことだと思われる。アビーロード・スタジオに残されたテープや資料を精査して編まれたこのビートルズ全録音に関する詳細な記録は、それまでさまざまな解釈や憶測にまみれていたビートルズ・サウンドの謎の大部分を一挙にクリアにした。

 まさに画期的な書物で、この本を参照しないでビートルズの本を書くことは以降、不可能になってしまったといってよい。

 もうおわかりでしょうが、『真実のビートルズ・サウンド』に書かれている「真実」もまた、大部分は『ビートルズ・レコーディング・セッション』であきらかにされたデータに基づいている。

 ひとつ例を見てみよう。「I'm Only Sleeping」(『リボルバー』収録。ジョンの曲である)について、川瀬氏はこう書いている。

〈このレコーディングは非常に変わった手法だった。メンバー全員によるリズム・トラックの音を、テープ・スピードをかなり速めて録音。次にそのテープを普通のスピードよりもずっと遅く再生しながらジョンのヴォーカルを録音し、そのテープ・スピードを少しだけ速く(通常よりまだ少し遅いスピードで)再生したヴォーカルをコピーし、OKテイクとしたのだ〉

 『ビートルズ・レコーディング・セッション』には次のように書かれている。

《“Eleanor Rigby”が終わると、今度はジョンが、録音済みの“I'm Only Sleeping”(リズム・トラックのこと──引用者註)にリード・ヴォーカルをオーバーダブした。この曲に関して3回行なわれたスーパーインポジション・セッションの1回目である。今回も50ならぬ45サイクル(Hz)で録音したため、プレイバックするとジョンの声がひどく高く聴こえる。さらにややこしいことに、ジョンのヴォーカルがスーパーインポーズされたリズム・トラックは、56サイクル(Hz)で録音、47¾サイクル(Hz)で再生された》(1966年4月29日)

難解かつ入手困難な「事実」を一般向けに

 専門用語などを排して噛み砕かれてはいるが、「事実」の多くは『ビートルズ・レコーディング・セッション』から取られていることが確認できる。

 じゃあ、川瀬氏の『真実』は無価値かというと、そう簡単な話ではない。

 『ビートルズ・レコーディング・セッション』は何しろデータと技術的解説を中心とした記録だから、興味のない人は数ページも読んだら頭が痛くなるようなシロモノである。おまけに品切れで古書価格が高騰している(アマゾンのマーケットプレイスでは8000円前後)。

 そういう晦渋で入手困難で重要な本を一般向けに開くことにはそれなりの意味と需要がある。

 それに、『真実』には『ビートルズ・レコーディング・セッション』以外から集められた「事実」も書かれているし、川瀬氏独自の解釈も織り交ぜられている。

 ビートルズについて新しい見解や事実などそうそう出てくるわけがないので、過去の研究や調査のリミックスになってしまうのは、これはもう避けようがない。その点で、川瀬氏の『真実』は真摯につくられており、良心的なビートルズ入門書になっているといえるだろう。

 ただ、どのデータがどの本から採られたものであるか典拠が明示されておらず、どこからどこまでが川瀬氏の見解であるのかはっきりしないところもままある。データ主義的であるだけに減点ポイントとせざるをえない。

 ちなみに川瀬泰雄氏は、ホリプロで長年プロデューサーを務め、井上陽水や浜田省吾、それから山口百恵をはじめとするアイドルなどを数多く手掛けてきた人物である。

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