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「名ばかり××」に四股名を与えよ

「名ばかり」(情緒的な表現で問題を内部化するための形容詞)

2009年3月23日(月)

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 いわゆる「名ばかり管理職」の訴訟が和解に至った。
 日本経済新聞は、以下のように書いている。

『日本マクドナルドが店長を管理職として扱い、残業代を支払わないのは違法として、埼玉県内の店長、高野広志さん(47)が未払い残業代など計約1350万円の支払いを求めた訴訟は18日、東京高裁(鈴木健太裁判長)で和解が成立した。原告勝訴の一審判決を事実上受け入れ、同社は高野さんが管理職に該当しないことを認め、約1000万円の和解金を支払う。(後略)』(日本経済新聞朝刊3月18日掲載記事より。NIKKEI NET掲載のリンクはこちら)。

 判決は当然。和解も至当。マクドナルドが原告側要求の満額に近い和解金を支払うことも、極めて適切な判断だと思う。

 ということで、本件は無事終了。
 これにて一件落着、である。

 問題は、波及効果だ。

 この種の訴訟に原告勝訴の判決が出て、でもって企業の側が、その原告全面勝訴の地裁判決をほぼ丸呑みにした形で和解に応じたということは、これは、マトモに考えれば、革命的なできごとだ。

 この判決が、もしアメリカで出ていたのだとすると、全国で似たような訴訟が何百何千と起こるはずだ。
 というのも、アメリカはチャンスの国で、アメリカ国民というのは、こういう機会を逃さないためにニュースをウォッチングしている人々であるからだ。

 うちの場合、どうなるのだろう。
 この判決を「チャンス」というふうにとらえるタイプの人々が、この国には、どれほど住んでいるのだろうか。

 高野店長と同じような立場で、無償の残業を強いられている「名ばかり管理職」は、全国に何万といるはずだ。
 というよりも、たとえば居酒屋チェーンの店長の中に、名ばかりでない、一定の権限と地位を備えた実質の店長がそんなにいるようには、私には思えない。

 とすれば、せめて彼らのうちの一割ぐらいは、訴訟を起こすとか、似た立場の人間たちを集めて組合を作るとか、政治家に働きかけるとか、そういう何らかの行動を起こさないといけないはずだ。
 でないと、スジが通らない。

 でも、どうせ彼らは何もしない。
 名ばかり被害者。
 と、オレみたいなヤツにからかわれても、うっすら笑っているのだろうな。どうせ。

 管理職は、普通の意味で言う「労働者」ではない。だから、彼らは、普通の労働者としての権利のいくつかを放棄している。組合にも加入できない(特に日本では)。
 その代わりに、管理職は、管理者としての「権限」と「地位」を持っている。
 彼らに残業手当がつかないのは、自分の勤務シフトをある程度自分で決める権限を持っているからだ。

 理屈としては、野生の鳥に餌が与えられないのと同じだ。
 鳥籠の中の鳥は、餌箱経由で給餌しないと死んでしまう。
 が、鳥籠の外の鳥は、自分の力で餌を集め、自分の才覚で食べていくことができる。だから、餌は要らない。そういうことだ。
 さてしかし、その管理職に、権限や地位が無いのだとすると、彼は、権利を放棄しただけの無防備な労働者に成り下がる。

 鳥籠から外に出され、餌箱から見放され、それでいて羽をもがれて、飛翔能力を喪失している飛べない鳥。
 ニワトリみたいだ。
 チキン管理職。
 鶏肉店長。
 なんという無力な人たちであることだろう。
 
 「名ばかり管理職」という言い方自体、踏み込みが甘いと思う。
 なぜというに、「名ばかり管理職」は、語感として、管理職本人が自らの境涯を自嘲してそう言っている感じを含んでいるからだ。

「ははは、オレなんかしょせんは名ばかり店長だから」
「いえ、課長と言ってもほんの名ばかりでして……部下もいないわけです、実際。そんな私がなぜ課長を拝命しているのかと申しますと、会社が残業代を払いたくないからという……それだけの話でして。ええ、無能なんですよ。根っから。わかってます。自覚してます」

 かように、「名ばかり管理職」という自称からは、自嘲、へりくだり、自己憐憫ないしは諦観自虐に近いあきらめの感情が伝わってくる。はやりの言い方で言えば、「心が折れている」わけだ。そこがどうにもなさけないと思う。

 「名ばかり管理職? それがどうした? 世間ってのはそういうもんだろうが。その苦境をどうやって耐えて行くのかが社会人としての勝負なんじゃないのか?」式の、無限忍耐圧力を発動させがちであるところも、この言葉の罪だ。

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「「名ばかり××」に四股名を与えよ」の著者

小田嶋 隆

小田嶋 隆(おだじま・たかし)

コラムニスト

1956年生まれ。東京・赤羽出身。早稲田大学卒業後、食品メーカーに入社。1年ほどで退社後、紆余曲折を経てテクニカルライターとなり、現在はひきこもり系コラムニストとして活躍中。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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