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ケータイ世代はなぜすぐ「ごめん」というのか~『小説の読み方』
平野 啓一郎著(評者:朝山 実)

PHP新書、720円(税別)

2009年3月31日(火)

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評者の読了時間7時間00分

小説の読み方──感想が語れる着眼点』 平野 啓一郎著、PHP新書、720円(税別)

 一球ごとに、バッテリーの狙いを、素人にわかりよいことばにする。楽天のノムさんの、次の投球を読む解説は、聞くだけで野球について物知り気分となる面白さがある。「裏」を読むということでは、これはノムさんに似ているかも、と思わせるのが、本書だ。

 著者は、前著の『本の読み方──スロー・リーディングの実践』で、デキルやつはやっているといわれる「速読」の不毛さを指摘し、本はじっくり、疑問に思うところは立ち止まり、できれば何度も読み返す「遅読」こそが、自分を養う力になると提唱している。

 あっという間に読めた。すらすら読めた。というのが、いまは賛辞に使われたりするが、ほんとうにそれは褒められることなのか。著者は京大生時代にデビュー作『日蝕』で芥川賞を受賞し、それがあまりに難解すぎて歯が立たないと評判になった作家である。ものすごい量の本を読みこなしているであろう彼が、「遅読」。

 さて、その続編にあたる本書でテキストに選ばれているのは、ポール・オースター『幽霊たち』をはじめ、綿矢りさ『蹴りたい背中』、ミルチャ・エリアーデ『若さなき若さ』、美嘉『恋空』など、全9作。自分ひとりで読んでいたときには、見逃しがちだったり、なんでこんな書き方をしているんだろうと、ひっかかったなぁここはという部分を抜き出し掘り下げているあたり、野村ノートに似ている。

 たとえば、高橋源一郎『日本文学盛衰史』に収められている、「本当はもっと怖い『半日』」。

 サッチーが、他人の花瓶を勝手に鑑定に出した(読者のみなさん、覚えておられますか?)。それをバッシングの材料にするテレビのワイドショーを、「嫁」と「姑」が見ている。

 嫁は、コメンテーターに同調し「絶対変よね」という。いっぽう姑は「他人の花瓶だからこそ、わざわざ鑑定に出そうとするもんじゃないのかしら。そういう人間の機微がわからない人間が騒いでいるんですよ」と、嫁とは逆の立場をとるのだ。

嫁姑モンダイに隠された文学的意味

 リビングのふたりの間には、距離がある。会話しているように映るが、互いが呼びかけている相手は、妻と母に挟まれた主人公である。

〈いったい、この女たちは誰に向かってしゃべってるんだ? 女たちはお互いに話し合おうとはしなかった。もう何年もの間、一度も話し合ったことはなかった。なのに、ふたりは年中しゃべっていた〉

 どちらの側にも与するわけにもいかず、頭痛に悩まされる男の名前は、「鴎外」。高橋源一郎が書くこの小説じたいが森鴎外の短編「半日」のパロディというわけだ。

 悩める「鴎外」は、友人の「漱石」に電話する。

 ここは黙っているのもまずいだろうと話に加わったらば、妻からも母からも、頓珍漢な返事しか返ってこない。おかしいと思わないか。ええっ、そう思うだろう? 

 聞き役である漱石はというと、そっけない。「ひとり言だよ。気にしなけりゃいいじゃないか」。よけいに鴎外はイライラを募らせる。

 妻と母と自分。三人の発言が噛み合わないのを指して、会話になってないと語る鴎外に対して、漱石は、それこそが会話じゃないかと反論する。さらにズバッと漱石は言い切るのだ。そもそも会話というものがどういうものわかっていないから、あんたは長いこと小説が書けないでいるんだ、と。

 鴎外はムッとする。

 文豪ふたりのぼやき漫才のようなやりとりだけでもこの小説は十分に面白い。しかし、読者を笑わせるためだけに、作者は小説を書いたわけではない。この場面に、どんな文学的な意味が隠されているのか。著者は、懇切丁寧に読み解いてみせる。

 たとえば、文豪の名前を用いた意図。作家には、単純化すると、二通りのタイプがある。「コンセプトをきちんと決めないで書き始める作家」と、「コンセプトを決めてからでないと書けない作家」。漱石は前者で、鴎外は後者の代表格だ。それを理解した上で読み直すと、「お悩み相談」の「裏」が見えてくる。

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