「小田嶋隆の「ア・ピース・オブ・警句」 〜世間に転がる意味不明」

この世は「3」で割り切れる

バックナンバー

2009年3月30日(月)

1/4ページ

印刷ページ

 「三ない消費」という言葉が、3月27日付けの日本経済新聞朝刊で紹介されている。「いまどきの売れ筋」という一面右の一番目立つ場所にある特集コラムの中で、だ。なので、既にご存知の方もあるだろう。

 「三ない消費」は「買わない」「持たない」「捨てない」という、3つのキーワードから語尾を借りてきた用語で、そう言われてみると、なるほど、この言葉は不況下の消費傾向をうまくすくい取っている。あざやかな要約だと思う。

 記事の中では、修理チェーン店、修理サービスの売り上げアップ、カーシェアリングの拡大、ブランド品買い取りサービスの成功物語など、「三ない」時代のニーズに合った多様なビジネスを紹介している。なるほど。
 
 でも、待てよ……と、納得した後で、ふと、別の考えが浮かぶ。いつもそうだ。私は納得ということがきらいなのかもしれない。いるよね、そういうヤツって。返事の第一声が常に「でも」で始まる面倒くさい下っ端社員みたいなのが。ええ、私はそれでした。しかも、齢五十を過ぎてなお、その性癖が改まっていない。もっと若かった頃に、一から叩き直されるべきだったのでしょうね。きちんとした先輩に。

 なのに、私は、まっとうな矯正教育を受ける前に会社をフケてしまった。で、何も身につけず、何も学ばず、キックオフ直後のパスミス一つでぶちキレて退場したカタチだ。無益な会社生活だった。

 でもまあ、30年を経過した時点から振り返ってみれば、会社にとっても私自身にとっても、お互いにこの方が(つまり、電撃退社という決断が)正解だったのだと思う。

 陣内君と紀香嬢にしても、この度、早めのタイミングで次のステップへの結論を得たことは、双方の今後にとって、よりベターな展開になるはずだ。いずれにせよ、できないことはできないのだから。英語で言えば “There's nothing you can do that can't be done.” ビートルズの「愛こそはすべて」(All you need is Love)の中にそういう歌詞がある。あえて愚直に直訳すれば、「ほかの誰かによって為し得なかったことで、キミに出来ることはない」ぐらい。含蓄のある章句だ。一見、後ろ向きのあきらめの言葉であるようにも聞こえる。が、違う。失意のうちにある人間は、励ましの言葉よりも、むしろ諦観のうちにより深いなぐさめを見出す。そういうものなのだ。別の言い方をすれば、再出発をはかる人間は、何かを目指すより、まず何かを断念することからはじめるべきだ、ということになる。素晴らしいフレーズではないか。ジョン・レノンが撃たれた翌日、ファンに向けた新聞広告の中で、オノ・ヨーコが引用していたのをおぼえている。素晴らしい追悼文だった。彼女がJASRACに著作権使用料を支払ったのかどうかは知らない。

 ちなみに、私が当連載で時々歌詞のブリーフィング(←引用じゃないぜ。ジャス)を試みているのは、JASRACを釣りたいからだ。なのに、なぜなのか、彼らは引っかかってこない。素人のブログはツブしに来るくせに(「著作権」「JASRAC」「ブログ閉鎖」ぐらいで検索をかけてみてください。あるいは「ビートルズ」「著作権」「演奏」でも良い。面白い記事がたくさん読めますよ)、新聞社系のウェブはスルー、と、そういうことなのだろうか。
 
 話を元に戻す。
 私が「待てよ」と思ったポイントは以下の通り。
 つまり私は、「買わない」「持たない」「捨てない」は、消費の傾向である以前に、消費それ自体の否定なんではなかろうかと、かように考えたのである。

 というのも、消費とは、「買う」「持つ」「捨てる」を繰り返す(ないしは拡大する)サイクルの由で、それらをやめることは、当然、消費そのものを消滅させることになるはずだからだ。

 似た言葉を思い出した。
 
 捨てさせろ、流行遅れにさせろ、みたいな、その種のキーワードを羅列した「ナントカ十則」みたいな話だったはず。いや、似ている、というより、意味合いとしては、むしろ正反対の標語だ。

 ……と思って、ググってみると、簡単に出てくる。うむ。便利な世の中になったものだ。

ここから先は「日経ビジネスオンライン」の会員の方(登録は無料)、「日経ビジネス購読者限定サービス」の会員の方のみ、ご利用いただけます。ご登録のうえ、「ログイン」状態にしてご利用ください。登録(無料)やログインの方法は次ページをご覧ください。


関連記事

Keyword(クリックするとそのキーワードで記事検索をします)

Feedback

  • コメントする
  • 皆様の評価を見る
内容は…
この記事は…
コメント21 件(コメントを読む)
トラックバック
著者プロフィール

小田嶋 隆(おだじま・たかし)

小田嶋 隆

1956年生まれ。東京・赤羽出身。早稲田大学卒業後、食品メーカーに入社。1年ほどで退社後、小学校事務員見習い、ラジオ局ADなどを経てテクニカルライターとなり、現在はひきこもり系コラムニストとして活躍中。近著に『人はなぜ学歴にこだわるのか』(光文社知恵の森文庫)、『イン・ヒズ・オウン・サイト』(朝日新聞社)、『9条どうでしょう』(共著、毎日新聞社)、『テレビ標本箱』(中公新書ラクレ)、『サッカーの上の雲』(駒草出版)『1984年のビーンボール』(駒草出版)などがある。 ミシマ社のウェブサイトで「小田嶋隆のコラム道」も連載開始。



このコラムについて

小田嶋隆の「ア・ピース・オブ・警句」 〜世間に転がる意味不明

「ピース・オブ・ケイク(a piece of cake)」は、英語のイディオムで、「ケーキの一片」、転じて「たやすいこと」「取るに足らない出来事」「チョロい仕事」ぐらいを意味している(らしい)。当欄は、世間に転がっている言葉を拾い上げて、かぶりつく試みだ。ケーキを食べるみたいに無思慮に、だ。で、咀嚼嚥下消化排泄のうえ栄養になれば上出来、食中毒で倒れるのも、まあ人生の勉強、と、基本的には前のめりの姿勢で臨む所存です。よろしくお願いします。

⇒ 記事一覧

記事を探す

読みましたか〜読者注目の記事

  • いま、歩き出す未来への道 復興ニッポン

日経ビジネスからのご案内