
「飲み行こう! 割り勘前提で!」
いいですよね、こういうお誘い。同窓同期ならではって感じで、大好きです。
また飲んでんのかよ、という突っ込みは真摯に受けとめます。
でも。
行きますよ! 割り勘前提で!
で、どこ行く?
「上野行こう! 桜、まだ咲いてるかも」
いやー、もう散ってるでしょう。
葉桜を愛でて上野公園をそぞろ歩き、私たちが向かった先は当然、それはそれは安い居酒屋です。
ビールは生より瓶、手酌でだらだら飲みたいな。
そんな風に思わせる佇まい。おわかりいただけますでしょうか。
「お前のアレ、『男も女になろう』、アレにネタやるよ」
ちょっと、私の分のお通しまで食べないでよ。
『女々しい男でいこう!』です。念のため。
もしや一杯で酔っ払った? ヤダヤダ、中年はこれだから。
注)同い年です。自分のことは当然棚上げ。
「俺の持論、『会社も女々しくなるべき』。どう? こういう思わずグッとくる新鮮な視点」
あのー、ちょっと前にやったんだけど。そういうの。
「細かいこと言うなよ。だいたいさ、いいじゃないの似たような話があったって。どうせお前のことだから、毎回毎回、おんなじようなこと書いてんだろ?」
あいや、ぐうの音も出ず。
けどね、「会社も女々しくなるべき」なんて言い出すってことは、会社でイヤなことがあったな、さては。
どれ、お姉さんに言ってみなさい。
「あのさあ、お前、近所の子どもに『お姉さん』って呼ばれる? おばさ…」
あいにくなのか幸運になのか、身近に子どもがいないものですから。
で、なんなの?
「俺の上司がさあ、タンクロタンクロってうるさいわけ。あのこだわり、何なんだろうと思ってさ」
タンクロ。単年度黒字。
甘く切ない響きですね。
「簡単にできりゃあ苦労しないっての」
それもその通り。
「だいたいさ、こういう不景気にこそ新しいプロジェクトをやるべき、頑張って続けるべきだと俺は思うわけ。困った困ったって言ってるだけじゃダメだろってんだよ」
ああ、思い出しました。
確か去年の桜の時期です。ちょっと楽しそうでしたよね。新規プロジェクトを任されたとかで。
どうなったの?
「そりゃ一生懸命やりましたよ。1年間、お前のこと飲みに誘わなかっただろ? でも、アカかクロか、わかんねーんだよな、まだ。つぶされるかも」
赤字だったらつぶされる?
「そう。でもさあ、どんだけのプロジェクトが初年度からクロになるわけ? 開発費はさっぴいても。教えてほしいよ」
いろいろあるとは思うんです。
でも、奴、おっと、彼の業界では、なかなか出ない初年度単年度黒字。だったはず。
それくらい上司も知ってるでしょう?
「知ってるんだよ、わかってるんだよ頭では。でも実際は××の××が小せえ奴でさあ、もう、たった1年赤字なだけで震えてんの。見てらんない」
それ、たった1年って思ってないんじゃないの?
“1年も”って受けとめてると思うよ。
「だから小せえって言うんだよ、××の…」
はいはい、わかりました。
「なんなの? あの、1年くらいでガタガタ言うのって」
1年が長いと思ってるんでしょ。
浪人生みたいに。
「あーっ、そうかも。あいつ現役なんだよ。だから余裕がないんだな」
あいつってアンタ、上司でしょう。
人間が感じられておもしろい。コメント全部読んでみよう。・・・あれ?これ文学として書かれたものなの?そうか、人間が書かれているからね。(2009/04/23)