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自由と民主主義のために、これがどうしても必要なの!~『銃に恋して』
半沢 隆実著(評者:尹 雄大)

集英社新書、700円(税別)

2009年4月3日(金)

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評者の読了時間6時間00分

銃に恋して──武装するアメリカ市民』 半沢 隆実著、集英社新書、700円(税別)

 明治期に編纂された国語辞典「言海」は、「デモクラシー」を「下克上ト云フモノカ」と説明した。民主主義を武力による権力の奪取に引き寄せて解説したのは、編纂者の教養の淵源が漢学にあることから、易姓革命を念頭に置き、下克上になぞらえたのではないかと思われる。

 易姓革命では、為政者が徳を失い、圧政を強いるならば、武をもって権力を討伐しても構わないとする。この革命思想は、中国の王朝交代の正当化に用いられたロジックだが、近世以降に、これを国是とした国家が誕生した。それがアメリカだ。正規兵ではない武装した市民が英国軍放逐の一翼を担い、独立国家の樹立に貢献した。

 本書によれば、この建国の経緯がアメリカ人のアイデンティティを形成しているという。その拠り所が合衆国憲法の修正第二条(武器を所有し携帯する権利)だ。

「規律ある民兵は、自由な国の安全にとって必要であるから、国民が武器を所有し携帯する権利は、これを侵害してはならない」

 銃による犯罪が絶えないアメリカ社会だが、「国民が武器を所有し携帯する権利」をめぐる問題は、ときに大統領の政治生命をも左右する。武装の権利が「神聖にして侵すべからず」の域に至っているからだ。

 本書は、共同通信の外信部として活動していた著者がアメリカで見聞きしたり自ら射撃を試みた体験などを通じ、「銃にしがみつく人々の姿や考え」をレポートしたものだ。「危険な銃を社会から排除すべき」という観点からではなく、「銃に恋する」体質を解き明かすことで、アメリカ人の本質に迫ろうとする。

毎年、ハリケーン「カトリーナ」級の経済損失

 アメリカ国内の銃器の数は1995年の時点で、約2億2300万丁。年間、約450万丁ずつ増加しており、世界最高の所有率を誇る。それだけに被害も凄まじい。

〈二〇〇五年に銃で死亡したアメリカ人は三万六百九十四人で、一日当たりでみると約八十人。負傷者数は〇六年に七万千四百十七人で、一日約二百人が銃で負傷している〉

 と、ほとんど内戦規模といっていいだろう。さらに事件捜査や司法手続きといった経済損失を計上すると「年間で一千億~千二百億ドル」に達する。05年に、アメリカ南部に打撃を与えたハリケーン「カトリーナ」の損失額はおよそ1250億ドル。被害額だけ見れば〈アメリカは毎年カトリーナ級の巨大災害を銃によって受けていることになる〉

 それにもかかわらず、大多数のアメリカ人は銃を手放さない。自国民に災厄をもたらしている銃をめぐって、銃の権利規制派と権利推進派のふたつの陣営が角逐している。

 権利規制派の努力が結実したのは、たとえば93年に成立したブレイディ法だ。「憲法が制定されて約二百年、アメリカに初めて実質的な銃規制が導入された」という画期的な試みだった。

 同法の狙いは、〈銃購入者のバックグラウンド・チェックのため、購入申し込みから実際に銃を引き渡す間に五日間(休日を除く)の保留期間を義務づけた〉ところにある。

 だが、抜け穴があった。購入者の経歴チェックを正規の銃砲業者だけに義務づけたからだ。したがって、個人のコレクションの売買譲渡は自由であり、売り手が個人を名乗れば〈相手が犯罪者でも銃を渡すことができてしまう〉

 その結果、犯罪が起きたとしても、「犯罪者を憎んで銃を憎まず」という立場をとるのが、NRA(全米ライフル協会)に代表される銃の権利推進派だ。NRAは強力なロビー活動とネガティブキャンペーンで規制派の政治家を落選させることで知られる。

 著者によると「全米で一元的に銃の所有者や所在を確認できるデータはない」という。銃による被害が甚大であるにもかかわらず、NRAは犯罪防止につながるはずのデータベース化を武装権の侵害として、反対している。

 その奇妙な考えを解き明かす鍵は、権利推進派の言い分に見てとれる。著者はそれを「銃と民主主義の不思議な共生関係」と呼ぶ。

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