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「男性として、働く上で、困ったことってありますか?」

2009年4月2日(木)

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 大学講師である知人からメールがありました。教えている女子大生が、「憧れの業界で働く女性」に話を聞きたいとのことで、私に取材に応じてほしいと。
 憧れの業界という五文字を見て、取り込んだ洗濯物と印刷物とがフルヘッヘンドしている自室でじっと佇む。

 まあ、いいか。
 部屋を見せるわけじゃないし、大学講師には、いろいろとお世話になっているし。

 でも、20歳の女の子と、会話できるかしら。逆を考えてみると、私自身が20歳だったころは、30代半ばの人間と、どうやって向き合ったらいいのか、距離感をつかめないでいました。

 杞憂でした。
 都内のスターバックスでお会いしたミウラさんは、きらきらと笑顔がはじけるようで、緊張はしているようでしたが物おじはしない、素敵な女の子でした。息子の嫁に、と、息子もいないのに先走りたくなる、そんなタイプのお嬢さん。

 1972年に東京で生まれまして、学校を出て出版社に入りまして、と普通にしゃべればいいものを、どうして人は、年下の人に対して一生懸命かつ無条件に、優しくなってしまうのでしょう。
 本当にこれはなんでなんだろうと思いつつ、ついつい話に熱が入ります。

 ああ、思い返せば私もきっとこうやって、年長者から無償の愛を注がれて育ってきたのですね。
 散々悪態をついたすべての先生ならびに先輩方、大変失礼いたしました。

 ミウラさんに聞かれて、はっとしたことがふたつ、あります。

「キャリア観を教えてください」

 え、キャリア観って?
 私はモノを知らないのです。

「えーっと、仕事観です」

 仕事観っていうのもあまりピンと来ず。
 理解力のない私。

「例えば、一生、仕事をしていこうって考えてますか?」

 ああ、そういうことですか。
 質問の意味はわかれども、今まで一度も、考えたことなかったなあ。
 人生なんとなくで、ここまで来てしまいました。

 でもせっかくの機会ですので、考えます。
 みなさまも、一緒にお考えください。

「一生、仕事をしていこうって考えてますか?」

 そんなのそもそも、考えたことないよ。
 というのがたいていの男性の答えではないでしょうか。
 だって、働くなんて当たり前じゃん、と。

 実は、私もそうなんです。
 そうじゃない人生もあることに、どうして気付かなかったのでしょう。

 毎度のことで恐縮ですが、一生働くのが偉いとか偉くないとか、そういった話ではありません。

 さらに、私事で恐縮ですが、私の親は、私に会社員のままでいてほしかったのではないかと思っていました。
 なぜならば父はそうし続けたことで、安定した収入を得て、私たちを育ててきたからです。

 だから子どもにとってもそれがベストウェイだと信じているのではないかと、そう想像していたわけです。
 さんざん親不孝をしてきた私ですが、これが最後の(と、毎回思う)親不孝だなと思いながらも、電話で「会社を辞める」と、相談ではなく報告したとき、父がどう思ったかはわかりません。

 母はしれっとこう言いました。
「いいんじゃない。食えなくなったら、実家に戻ってくればいいし」
 娘の知らない母の一面を見た思いでした。

 それを選ぶかどうかは別として、「そうか、働かない人生もあるのだな」と実は私はそこで気が付いていたのです。

 どういう職業に就くか、全く予想できなかった子供のころから、私は、「大人になって働かない自分」を想定しないできたのでした。
 選択肢を自ら捨てていたことに、自分のことながら大変驚きました。

 女性は選べる、とよく言われます。だからこそ悩む、とも。
 結婚するか、しないか。子どもを持つか、持たないか。仕事を続けるか、辞めるか。
 多様な選択肢があり、それぞれ分岐していくから、学生時代の友人と、ある一時期話が合わなくなって、疎遠にならざるを得ないことがある。
 いつかきっとまた、仲良くなれると思うけれど。

 でも本当は、男性も、それから私も、同じように選択肢があるはずなのに、あったはずなのに、どうして“ない”と決めつけてきてしまったのでしょうね。

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「「男性として、働く上で、困ったことってありますか?」」の著者

片瀬 京子

片瀬 京子(かたせ・きょうこ)

フリーライター

1972年生まれ。東京都出身。98年に大学院を修了後、出版社に入社。雑誌編集部に勤務の後、2009年からフリー。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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