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輸出だってできる! コメの「力」を削ぐのは誰だ~『農協の大罪』
山下 一仁著(評者:山岡 淳一郎)【奨】

宝島社新書、677円(税別)

  • 山岡 淳一郎

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2009年4月6日(月)

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農協の大罪──「農政トライアングル」が招く日本の食糧不安』 山下 一仁著、宝島社新書、677円(税別)

 近所のスーパーに行くと、つい生産者の「顔」が見える野菜に目がいく。昨夏、米粉加工会社による「汚染米」の不正転売事件が起きてから、生産者を顔写真つきで紹介した食品が増えた。素性のハッキリした安全な食べ物は、割高でも人気の的だ。

 そのほとんどは、スーパーが農家と直接契約して販売している。

 店と農家の間に、日本の農業を支配してきた「農協(JA)」は入っていない。

 戦後、自民党の農林族議員と結びつき、農林省にも強い影響力を行使してきた農協。職員数30万人ともいわれる巨大組織の「脱農化」は静かに進んでいる。

 すでに農協の金融部門「農林中金(農林中央金庫)」は国内最大規模の機関投資家に変貌した。農林中金は、農家から、その農業収入や、農地を宅地や工場、商業施設、道路などに転用した莫大な利益を預金として吸い上げ、海外を主体に資産運用してきた。バブル期には住宅金融専門会社(住専)への貸し込みで大やけどを負いながら、国費投入で生き延びた。だが、世界的な金融危機で運用益は大幅に減少している。

 食糧自給率が40%まで低下したいま、食料安全保障と水資源の確保、国土保全に深く係わる農協は、どのような動きをしているのだろうか?

 そんな疑問を胸に本書を手にとった……。

 著者は、昨年まで農水省で農村振興に取り組んできた農政のプロだ。元官僚ではあるが、農水省の失政も厳しく断罪しており、説得力がある。

 読み終えて、農協─族議員─農水省トライアングルの罪深さに愕然とする。農業の衰退に歯止めをかけるどころか、加速させているように読み取れる。著者が指摘する病根は、「高米価政策(減反)」と「農地制度(農地転用)」である。

お米は作らないでください、補助金あげるから

 著者は、まず「汚染米」の大部分が「ミニマムアクセス米」という輸入米だった背景を解き明かすところから、歪んだ現実に斬り込む。ミニマムアクセス米とは、日本政府が米について778%もの関税をかけた代償として、外国から輸入した低関税の米。日本は高関税を米にかける代わりに、消費量の8パーセントに当たる77万トンを低関税で輸入するとWTOに約束し、それを実行している。

 農水省が輸入したミニマムアクセス米は、〈国内の需給、すなわち国内米の生産には影響を与えない〉との理由で市場には出されず、大半を海外への食糧援助用などに保管している。しかし海外からの要請がなければ食糧援助はできない。当然、保管期間は長期にわたる。カビが生えるのも当たり前。保管費用の財政負担は、どんどん膨らむ。

 なぜ政府は米に高い関税をかけ、わざわざ汚染リスクの高い米を輸入するのか。著者は断定する。

〈国内の高い米価を維持したいからである。……高い米価は、誰のため、何のために必要なのか? 農協にとって、米価が高ければ販売手数料も高くなるし、肥料や農薬も農家に高く売れ、また手数料を稼げるからである。高い米価は何で維持されているのか? 水田の4割で米を作らないという供給制限カルテル、つまり減反によってである。カルテルとは、業者が結託することによって市場への供給を制限したり、高い価格を維持したりすることである。これは本来ならば独占禁止法で禁止されている行為だ〉

 さらに政府は減反カルテルを維持するために〈毎年2000億円、累計で7兆円に上る補助金〉を出しているのだという。

 農家に米を作るなと呼びかけて、補助金まで出す。一方で食料自給率はわずか4割……まったくチグハグだ。米の需給を無視した統制経済のように見える。

 だが、農協は、「貧農を切り捨てるな」と声高に叫び、高米価政策を後押してきた。

 農協が守ろうとする貧農とは? 農家には専業と兼業がある。農協は、両者の選別政策をとらず、兼業の小農を守れと主張する。確かに農家は後継者不足で、急速に高齢化が進む。やっとの思いで農業を営んでいる農家は保護すべきだろう。辛うじて農業を担っている人々だから、大切にしなくては……と、素人のわたしも思う。

 しかし、著者によれば、この昔ながらの貧農イメージがくせものらしい。

コメント6件コメント/レビュー

日本の農業政策に興味を持っています。ここに書かれたことは、概念的には感じていましたが、「本当にそうだったのだ」と納得しました。食料自給率の低さが話題になる中で、マスコミが大きく取り上げないことの不自然さを感じます。(2009/04/12)

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いただいたコメント

日本の農業政策に興味を持っています。ここに書かれたことは、概念的には感じていましたが、「本当にそうだったのだ」と納得しました。食料自給率の低さが話題になる中で、マスコミが大きく取り上げないことの不自然さを感じます。(2009/04/12)

『ミニマムアクセス米とは、日本政府が米について778%もの関税をかけた代償』なんて、初めて知りました。テレビでは、そんなことを言ってましたっけ? 「ミニマムアクセス米は必要悪」みたいな印象が強かったのですが…。やっぱり、ワイドショーなんか見てないで、きちんとした本をたくさん読むべきですね。中国の富裕層は、バカ高い日本の農産物を平気で買っているそうですから、ただで配るとか、日本の米の上手さはガイジンには分からない、などと傲慢なことは考えずに、欲しい人にどんどん美味しい日本米を売れば良いのです。(2009/04/11)

この本や著者の事は知りませんでした(不勉強でした)。しかしミニマムアクセス米のからくりを報道されたときに考えた結論は本書と同じ。海外輸出すれば量の効果でコスト削減も出来るしいいのでは…と思ったのですが。「減反政策廃止」というのはお化けが出たぞと同じで、何度も言われますが、あとから「実は実態は廃止されていなくて…」が何回か続いていますね。今度こそと思います。(2009/04/06)

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三品 和広 神戸大学教授