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「磊落豪宕」のただしい読み方

2009年4月16日(木)

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 いまさら、ですよね。でも書きます。WBCの話です。ほら、あれです。5回も韓国戦があって、日本が2連覇を果たした野球大会です。

 あれを見ていて「へえ」と感心したのは、清原和博さんの解説のわかりやすさでした。
 私は野球に詳しいわけではありません。打ったらまず一塁へ走るとか、ファウルは2回までがストライク扱いとか、走者はフライがキャッチされてからじゃないと走っちゃダメとか、そういうルールはわかります。

 けど、どういうときの振り逃げは有効なのかの判断は付きかねる。「ここは三塁手がカバーに入るべきでしょう」などという解説を聞くと、「あ、そうなの? そういうものなの?」と思うレベルです。

 ちなみに、今の12球団の監督の名前を上げろと言われても、片手に追いつきません。

 そんな私に清原さんの解説は難しくなかった。話し方が論理的なのと、言葉使いが平易だったからだと思います。技術論と精神論とのバランスも、少なくとも私にとっては絶妙でした。

 それだけだろうか、と思いました。
 このコンフォータブルな幸福感は、もっと別のところからも来ているような気がします。だとすると、どこから。

 もしかして、彼が実感としてわかっていることだけを、私も知っている言葉で話してくれているからではないだろうか、と思いました。

 わかっていることだけを言う、というのは、わからないことは言わない、ということで、実はこれが結構難しい。
 「そんなの知ってますけど」「当然分かってますけど」というポーズを、ついとってしまう。
 または、難しい言葉を使ってしまう。

 私は先日もやりました。
 突然、自分の頭のデータベースにはない四字熟語がどうしても使いたくなった。またこれも、素敵な男性についての原稿なのですが、「こう、石って字がたくさんあって、Rの音が入ってる言葉で…」

 わからなきゃ使わなきゃいいのです。と頭のどこかで私の一部が指摘します。
 腹が据わっているとか、懐が深いとか、頼りがいがあるとか、細かいことは気にしないとか、別の言葉を使えばいい。

 なのに、どうしてもその、ぼんやりとしか輪郭のわからないその四字熟語が使いたくて仕方ない。とまた別の私の一部が主張します。
 本棚から、一冊取り出す。こんなに重かったのか類語辞典。何年かぶりに触れるので、使い方も忘れている。

 「えーっと、豪快、かな、それか、心が広い、か」などと分厚い本を膝にのせ、老眼ではないのですが目を細めて字面を追う。

 ありましたよ。磊落豪宕。らいらくごうとう、です。
 わーいわーいと早速、らいらくごうとう、と入力して変換。磊落豪宕。素晴らしい。

 でも結局、推敲の時点で書き換えました。やはり違和感があるんですね。無理しているのが自分でよくわかるのです。
 他人が見てもわかったかどうか、それは定かでありません。

 こんな自分を棚に上げ、私は長年の疑問をその人にぶつけます。仮にシバタさんとします。男性です。

 どうして“知らない”って言えないんですか?

 シバタさんは博覧強記。どんな話題にも「それについてはこういう面白い話もあって」「実はそれにはこんな背景があって」と、「へーっ」と唸るような解説をしてくれる。

 すごいなあ、と思うわけです。この人の頭の中って、どうなってるんだろうと感心するのです。

 ところがだんだん、そうでないような気もしてきます。“磊落豪宕”がパッと浮かばず、“博覧強記”もこれでいいんだったかなとおぼつかない私ですが、四字熟語とは遠く離れた所に、専門分野と言いますか、世間一般よりはこれについてはちょっと詳しいと自負できる分野が、狭く浅く、あります。

 ある日、その分野の話になりました。するといつもの調子でシバタさんは、「太陽は西から上がるんだよ」というようなことを、シレっと、普段の説得力そのままで言うのです。

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「「磊落豪宕」のただしい読み方」の著者

片瀬 京子

片瀬 京子(かたせ・きょうこ)

フリーライター

1972年生まれ。東京都出身。98年に大学院を修了後、出版社に入社。雑誌編集部に勤務の後、2009年からフリー。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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