「毎日が日直。「働く大人」の文学ガイド」

26.エンタテインメント小説と純文学、どっちが純粋?

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2009年4月15日(水)

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 日直のチノボーシカです。きょうは「純文学」と「エンタテインメント小説」のお話。

 このふたつは、かっきり分かれているわけではない。

 「大衆小説」は1970年代から、「エンタテインメント小説」と呼ばれるようになった。

 しかし、どうもこの「エンタテインメント小説」とか「純文学」という名称が、どうにも実態に合っていない気がするのである。少なくとも自分の実感としては。

 エンタテインメントとは娯楽のことである。しかしそもそも小説を読むというのは基本、娯楽である。貧乏と病気に彩られた辛気臭い私小説や、難解な実験小説だって、読む人は「おもしろい」から読むのだ。前回書いたとおり、「おもしろい」のツボは人によって違うし、そしてひとりの人にも「おもしろい」のツボはひとつではないのだから。

 となると、「大衆小説」だけが「エンタテインメント」な小説ではないわけである。

 では、「エンタテインメント小説」とはひたすら娯楽オンリーの小説で、純文学は娯楽プラスなにか(ってなんなのか知らないけど)の小説ということになるのだろうか。

 それも違う。

 「人間いかに生きるべきか」的な問いにたいする答えを、マスのレヴェルで出していこうという「大衆小説」作家はむかしから存在した。

エイジ』重松清 著、朝日文庫、693円(税込)
うつくしい子ども』石田衣良 著、徳間文庫、580円(税込)
ニッポニアニッポン』阿部和重 著、新潮文庫、380円(税込)

 「大衆小説」がまだ自立していなかったころの菊池寛、その後の大仏〔おさらぎ〕次郎、戦後の松本清張・司馬遼太郎・山崎豊子・五木寛之・藤沢周平、そして現在の宮部みゆき・重松清・天童荒太といった人たちがそうだ。「人間いかに生きるべきか」的なまじめな問いはむしろ、純文学より大衆小説のほうと相性がいいのである。

 たとえば、少年犯罪を主題とした重松清の『エイジ』や石田衣良の『うつくしい子ども』はシリアスで、読者の共感を誘おうとしていて、なんだったら泣いたっていい。だから「人間いかに生きるべきか」的なまじめな問いゆえに、エンタテインメント小説として優秀だといえるのだろう。

 いっぽう、同じ「少年犯罪」を題材としていても、阿部和重の『ニッポニアニッポン』は、重松清のファンの目から見たらきっと不謹慎でふざけきった小説に見えるだろう。重松清や石田衣良の描く少年犯罪は痛々しいが、阿部和重の描く少年犯罪はイタいのだ。この不謹慎さは、純文学としての真剣さであり、それゆえにこそ私は『ニッポニアニッポン』のほうにこそ感動してしまう。

 のだけど、人のツボが人によって違う以上、前回書いたとおり、「だれにでもおすすめ」できるわけではない。

 「純文学」という名称は、「エンタテインメント小説」以上に変だ。なんだか「純喫茶」みたいじゃないか。

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著者プロフィール

千野 帽子(ちの ぼうし)

パリ第4大学博士課程修了。京都在住の勤め人・俳人。2004年より休日のみ文筆業。著書に、「東京新聞」連載をまとめた『文藝ガーリッシュ 素敵な本に選ばれたくて。』『世界小娘文學全集 文藝ガーリッシュ舶来篇』(河出書房新社)、「野性時代」連載をまとめた『読まず嫌い。』(角川書店)、読書漫筆集『文學少女の友』(青土社)。「ミステリマガジン」「ジャーロ」にて連載、また「東京新聞」「讀賣新聞」「SPUR」「Figaro japon」「BRUTUS」「HanakoWEST」「yomyom」「週刊文春」「文藝」「文學界」「すばる」「ユリイカ」「真夜中」「小説トリッパー」「早稲田文学」「ダ・ヴィンチ」「週刊読書人」「別冊宝島」などに寄稿。



このコラムについて

毎日が日直。「働く大人」の文学ガイド

この連載は、「働く大人」の読者の疲れを癒し、リフレッシュして勤労意欲を高めるのに向いた文学作品のガイド、では断じてない。そうではなく、こちらが文学の世界に単身潜入して、大人の読者に向けてレポートするものである。ここで取り上げるのは、働くということにまつわる、個別の奇妙さ、ヘンテコさ、そこから立ち上がってくる疑問をうじうじと、ひとつひとつ拾っていく、そんな文学や漫画。私たちが毎日そんなことをしていれば、仕事が立ち行かなくなるから、代りに文学がそれをやってくれている。腸内細菌のようなものだが、腸内細菌と違って、なにかの役に立つという保証がないのが文学だったり漫画だったりするのである。そういうものを紹介する連載だ。だから、仕事中にこっそり読んでほしい。

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