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真面目で几帳面、だから嫌われた~『山県有朋──愚直な権力者の生涯』
伊藤 之雄著(評者:尹 雄大)

文春新書、1300円(税別)

2009年4月20日(月)

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評者の読了時間8時間00分

山県有朋──愚直な権力者の生涯』 伊藤 之雄著、文春新書、1300円(税別)

 山県有朋は、足軽に充たない身分から明治維新の原動力となった奇兵隊の実力者、さらに日本陸軍の建設者となり、元帥の地位まで上り詰めた。また、大正11年2月、84歳で亡くなるまで政界のキングメーカーとして影響力を行使し続けた。だが、栄華を極めたはずの山県の葬儀は、実に閑散としていた。

 駐日フランス大使、ポール・クローデルは、山県の国葬を見送った後、次のように記した。

「彼の愛国主義とは、自分の主君の影響力が大なるのを見るという望みだけだったのでしょうし、彼は同胞を帝のつましい従僕であるという点でしか、愛することができなかったのでしょう。したがって、日本国民は彼に対して大きな親近感はもっていなかったことを認めなければなりません」

 一カ月前に没した大隈重信の葬儀では、大勢の人々が葬列を見送った。東京日々新聞はこう報じた。

「大隈候は国民葬。きのうふは〈民〉抜きの〈国葬〉で幄舎の中はガランドウの寂しさ」

 山県は生前から蛇蝎の如く嫌われた。その理由は、自由民権運動を弾圧し、政党政治を憎悪し続けたことに求められるだろう。

 後世の評判も悪い。軍人勅諭と教育勅語の作成により、天皇主義国家の成立に血道をあげた。軍令に関して内閣や議会の容喙を許さない統帥権の独立や帷幄上奏の慣例を敷くなど、昭和における日本軍部の暴走を許す契機をつくった。

 本書に先行し、山県の評伝を著わした作家の半藤一利氏は、山県の政治、軍への関わりを「自分の権力を拡大かつ保全たらしむるため」のものだと断罪する。

悪役の「優しさ」と「生真面目さ」

 山県は国民に愛されようなどとは思っていなかったようだ。彼は権力を愛し、70歳を越えてこう洩らした。「人間は権力から離れてはならない。それ故、自分も権力の維持に力を尽くしている」。それゆえ人々は山県を忌み嫌い、恐れた。

 本書の著者・伊藤之雄氏もまた悪評を認める。

〈長州閥・軍閥・官僚閥の巨頭であった山県は、政党政治家やジャーナリズム・国民から、政党政治やデモクラシーの妨害者としてそびえる壁とみなされた。彼は、今でも明治・大正時代の「悪役」として、申し分のない存在である〉

 従来の山県の評伝の多くは、「反動の権化のようなイメージ」を伝えるものが多い。しかし、本書はそれらが依拠しなかった、新たに公開された手紙や文書をもとに「生身の山県の声を伝える」と意気込む。

 本書が「山県の実像」に迫ろうとする中、目に付くのは、「優しさ」と「生真面目で几帳面な性格」という表現である。著者はこれらの語を繰り返す。

 たとえば、西郷隆盛を中心とした征韓論をめぐる政変だ。閣議のメンバーではない陸軍卿の山県は中立を保ったが、その政治的姿勢を著者はこう指摘する。

〈山県は権力志向の強い人間だとみなすのが、一般の理解である。しかし征韓論政変の山県の動きから、山県の西郷への「優しさ」と、軍は政府から自立しているべきだという主義にこだわりを残す生真面目さがわかる〉

 「優しさ」とは何か。山県は二度、西郷に窮境を救われていた。一度目は、徴兵制導入に際し薩摩系将校の反発を受けたとき。二度目は、山県に汚職事件の嫌疑がかけられ、軍内で突き上げられたとき。著者は、その恩義から西郷に反対せず、政争から遠ざかったことを評価しつつ、そこに「義理のみならず人情や主義に動かされ、損得を中心に考えない若さと未熟さ」を看取する。

 他方の「生真面目さ」とは、軍は政治から距離を置くべきという態度のことだ。山県は「陸軍の近代化と政治からの独立という主義や理想」を持っていた。理想を達成するには「若さと未熟さ」からの脱却が必要だった。次第に山県は「用心深く行動」し、「人脈や派閥を構築」することに勤しむようになる。

 「政治からの独立」という点で著者が特に強調するのが「シビリアン・コントロール」だ。

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