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その『涙の理由』は「優しい私」の指さし確認では?
~感情のデフレ化はどこかヤバイ

2009年4月22日(水)

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涙の理由』 重松清、茂木健一郎著、宝島社、1143円(税抜き)

 先日テレビで、葬儀の司会のコツを教えていた。

 局のアナウンサーと、そのみちの本職が原稿の読み比べをするという趣向だ。まず女性アナウンサーが、抑揚をつけて原稿を読み上げた。いかにも弔いの気持ちを込めましたというふう。原稿を膝元に下ろすと、ギャラリーから拍手が起きた。噛んだり、よどむこともなく、できばえは満点。

 番組の進行役が「どうですか」と尋ねると、「うまいですよね」とプロ。「でも、上手じゃないほうがいいんですよね」。

 いま以上にうまくやれるの。だったら、お手本を見せてもらおうじゃないかと、本職の彼女に視線が集まる。

 姿勢が違っていた。アナウンサーは、カメラに顔が映るよう、しっかり正面を向いていたのに対して、うつむきかげん、前髪が目を塞いで、ちょっと「貞子」ふう。ゆっくりと言葉の間をとる。

 とつとつとした口調に、先ほどとは打ってかわって、居合わせた全員が聴き入ってしまっている。ワタシもひきこまれた。

 文章でいうと「、」のアキが効果的だった。

「感情を込めない」のがコツだと本職の女性はいう。説明もまた淡々としてフラット。それでも無表情な響きには、アナウンサーの巧さには「ない」ものが、あった。

 まるで感情のこもらない「、」の隙間だからこそ、聴き手はイメージを膨らませるノリシロがもうけられていた。

 聴き手の想像にあずけるためにも、ナレーションに感情を込めない。これは、長年ひとり芝居を続けている、イッセー尾形さんの演技にも通じる。

 イッセーさんは、キャラクターを演じる際には、身体の動きに集中し、気持ちを作ろうとかは考えたことがないと話していた。

人生で一回きりの涙の理由

 さて。本書は、脳科学者の茂木氏と、作家の重松氏の対談集だ。テーマは、「人はなぜ涙を流すんだろう?」。

 対談の中で興味深いのは、茂木氏の「涙の所有権」という提示だ。

〈不意打ちされて、予想できない形で襲ってくる事態をきっかけにして涙を流すことはあるでしょうね。その人物なりの履歴や記憶があるからこそ、涙が、「その人のもの」になる。「涙の所有権」というか……。たとえば、目にゴミが入って出る涙は、「その人のものではない」ように思えます〉

 ふたりは、「泣ける」と評判の大ヒット映画を観て流す涙と、自分でもなぜかわからずにあふれ出てしまう涙とを分けて考えようとする。

 前者は、何度でも泣くことのできる、借り物の涙。後者は、人生で一回きり、そのときかぎりの涙である。

 後者の例にあげられるのが、西武対巨人の日本シリーズで清原選手が、アウト一つで西武が優勝というときに、一塁を守りながら泣いていた場面だ。

 清原が引退したときには何度もテレビはその場面を流していたから、野球ファンでなくとも記憶している人は多いだろう。あの涙は、彼の人生において一回しか起こりえず、彼自身もなぜ涙が出たのか、頭の中でなにが起きていたのか、うまく説明できないものだろうと茂木氏はいう。いろんな、フクザツな記憶のピースがピタッと合わさった瞬間かもしれない。

 重松氏は、そんな話を受け、自分が小説を書きはじめたきっかけについて話している。

 無二の親友が自殺したときに、自分ひとりが泣けなかった。まわりで、親しくもなかった人間が泣くのを見て、自分の気持ちは醒めていくばかり。「なぜ泣けないのか」と思ったのが、小説を書く根っこにあったという。

 親しいからこそ泣けないというのは、よくいわれることだ。ワタシも親の葬儀の際は、ドキュメンタリーを眺めているような感覚だった。棺桶を覗き込みながら「ここで泣かないでどうする」と涙を絞りだそうとする自分を、肩口あたりでワタシが見ていた。

 思いもかけず寝床で号泣したのは、葬儀から十日ほどした明け方だった。だから、重松さんのこだわりは理解できるし、ある年齢に達したひとなら、あることだとおもう。

 重松氏の話を受けて、茂木氏は物理学者リチャード・ファインマンのエピソードを紹介する。

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