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「家政婦」が見た“世界のクロサワ”~『黒澤明から聞いたこと』
川村 蘭太著(評者:朝山 実)

新潮新書、720円(税別)

2009年4月22日(水)

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評者の読了時間4時間30分

黒澤明から聞いたこと』 川村 蘭太著、新潮新書、720円(税別)

 人物ルポを書こうとするときに考え悩むのは、本人を知る人たちの取材をどうするかだ。

 あらたまって話を聞こうとすると、ほめ言葉があふれがちになる。理想は、写真でいうと、本人がポーズをとって立っている、その後ろの壁にできる影の部分、ふだん目にしていても気にとめない濃淡を引き出すことなのだが。

 著者は、黒澤明監督のことを「お父さん」と呼んでいた。ふたりの娘たちも、親しみをこめ、世界のクロサワを「クロジイジ」。いっぽう黒澤監督は、著者に「ダンさん」と声をかけていた。

 本書は、黒澤家と家族ぐるみの交流をしていた、映像プロデューサーが書いた「黒澤明の肖像」だ。俗っぽい表現をするなら「家政婦は見た!」に、距離感覚はちょっと似ている。

 著者と黒澤監督との縁は、監督の長女・和子さん一家が暮らすアパートの隣に、第一子をもうけたばかりの著者夫婦が引っ越したことに端を発する。1979年初秋のことだ。

 ある晩、赤ん坊の夜泣きに往生していると、家のガラス窓を、とんとんと叩く音がする。苦情を言われるものと身構えて窓を開けると、「気にしないで大丈夫よ」と、隣家の奥さんが微笑していた。「落ち着いて赤ちゃんを安心させないと、余計に赤ちゃんも不安になるからね」。それが、和子さんだった。

 ふたりの男の子を育てていた和子さんにしてみれば、他人ごととは思えなかったのだろう。これを機に両家の付き合いがうまれ、和子さん宅を訪れる「クロジイジ」や監督夫人とも親しくなっていく。

 和子さん一家との出会いについてもそうだが、ささいな生活の一風景、エピソードの断片が、クロサワの表情を浮き立たせている。

 「ダンさん」の愛称は、和子さんの子どもたちが「隣の旦那さん」を略して呼んでいたのを、そのまま使っていたらしい。

ハンパな距離感ゆえに見えたもの

 著者が、黒澤監督と接した時期は、作品でいうと『影武者』の撮影から、亡くなるまでの約20年間にわたる。当時CMプロデューサーをしていた著者は、1981年より監督の長男・久雄氏の会社で働くことになる。

 血縁はないが、外の人でもない。クロサワに対しては常に、緊張していたことがうかがえる。しかし、その居心地のわるさは、著者自身がいうように黒澤家の「観察者」に適役だったと、本書を読めば思う。定まらない距離があったがゆえ、記憶にとどめることのできたものの記録でもある。

 映画『乱』の資金調達で、コッポラ監督と会うためにアメリカへ行く際のこと。黒澤監督を自宅から成田まで送迎するために、著者はハイエースをチャーターした。それもいちばんグレードの高いものを。

 しかし、車が到着しても監督は二階の自室から、いっこうに降りて来ようとしない。籠城してしまったのだ。

 国産車というのがお気に召さなかったらしい。そんなこともあろうかと著者は、保険をかけていた。スタッフ所有のマスタングを呼び寄せたところ、監督が降りてきた。

〈「最近足が痛くてさ、小さな車は駄目なんだよ」と足を擦ったりしている。私が監督なら、氏のその演技は見え透いていてやり直しだ〉

 マスタングのクーペはツードアで、後部座席が極端に狭い。だからハイエースを選んだのだ。それにもかかわらず……。

 しかも、監督は助手席に座り、広くていいわとハイエースのほうに乗り込んだ野上照代さんを招き寄せ、わざわざ窮屈な後ろの座席に押し込め、上機嫌で出ていったという。

 巨匠にして、コマッタさんである。憎めないお茶目さんでもある。そんな朝の一部始終を、観察者らしく詳細に綴っている。

 語られるのは、監督ばかりではない。先の和子さんの挿話のように、黒澤家についての外伝的な色合いもある。

 たとえば、同じく『乱』の撮影のためにスタジオを建設しようというときのこと。

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