「シネマde青春」

「言葉には責任を持つべきだと思うが……、きみはどうもそのへんがいい加減だね」
〜第27回:ミッドナイト・ラン

「わかった。責任を持って言うぞ、黙れ」

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2009年5月1日(金)

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 黒い皮ジャンにジーンズというスタイルがトレードマークだ。

 そして、いつも古い腕時計を気にしている。とんとん、と文字盤の上を指先で軽く叩いては耳に当て、秒針が動き出すのを確認する。事あるごとに、彼はそんな仕草を繰り返すのだ。

 かつてはシカゴ市警の刑事。いまはロサンゼルスで“賞金稼ぎ”を生業にしている。
 それが主人公ジャック・ウォルシュ。スパロウでもなければスレーターでもない。ジャック・ウォルシュだ。演じているのは名優ロバート・デ・ニーロ。

 ジャックは、マスコーニ保釈金融という一風変わった消費者金融からの仕事を請け負っている。この会社は個人経営だが、逮捕拘留された容疑者の保釈金を融資する専門の“金貸し”なのだ。

 しかし、保釈金を借り受けて保釈されたはいいが、そのままトンズラを決め込む“債務者”もいないわけではない。そういった債務者を探し出し、とっ捕まえて連れ帰るのがジャックの仕事だ。その成功報酬が劇中では“賞金”と呼ばれ、だから賞金稼ぎなのである。

 ジャックが受けた依頼は、ジョナサン・マデューカスの居場所を見つけ出し、連れ帰ること。デュークと呼ばれる会計士だ。公爵である。その愛称が示すとおり、彼はマフィア組織の会計士を務めていたが、事もあろうに彼らの裏資金を勝手に慈善事業に寄付した善意の会計士なのだ。紳士なのである。

 その額は1500万ドル。単純に言ってしまえば、15億円以上もの金を寄付したのである。

 善意の寄付ではあったが、しかし、それが横領罪にあたるとして逮捕され、マスコーニ保釈金融は保釈金に45万ドルを融資した。4500万円だ。

 ここで問題が三つ発生する。ひとつは、そのデュークが行方をくらませたこと。

 ふたつ、1500万ドルもの裏資金を勝手に寄付されたマフィア組織はかんかんになって怒っており、裁判が始まって被告のデュークが“必要以上”のことを喋る前に消そうとしていること。

 三つ。そうなると、マスコーニ保釈金融としては融資した45万ドルが返ってこないこと。

「頼むよジャック。デュークを見つけて連れ戻してくれ。期限は今度の金曜の夜中まで。あと5日だ。5万ドル出す」
「断る。他の仕事をまわしてくれ」
「お前がやってくれないと俺は破産するんだ。知らなかったんだよ、あいつがセラノに関わっていたなんて」

 デュークが手をつけた金は、シカゴ一帯を取り仕切るセラノ一家の金だ。

 元シカゴ市警のジャックとは因縁浅からぬ関係にもある。ジャックは、この男のせいで刑事という職を追われたのだ。

「10万ドルならやるよ。セラノが絡んでいるとなりゃ命がけだ。やばい仕事を頼むならそれに見合うだけの額を出せ、10万だ。それからちゃんと契約しろ。契約書に償金は10万ドルと明記すれば、やつを連れてきてやる」

 桁違いの償金額だが、社長のエディ・マスコーニは渋々了承するのである。

 ジャックは馴染みの警察官に捜査資料を極秘で見せてもらい、デュークが逮捕前にかけた通信履歴から潜伏場所をニューヨークと突き止める。このあたりの情報入手は元警察官でないとできない。というか、堂々と警察署の資料室に入り込んでファイルを読み込んでいたりする。アメリカではよくある話。かどうかは知らない。

 警察署を出て、いざ仕事に取りかかろうとするところをジャックは張り込み中のFBI捜査官に取り囲まれ、車に押し込まれるのだ。実は、マスコーニ保釈金融には“ネズミ”がいて、ジャックの動きはセラノ一味にも、その電話を盗聴しているFBIにも筒抜けなのである。

「マデューカスに関心があるようだな」
「知らんな、いったい何のことだ」
「知ってるはずだ。よく聞け。俺たちはセラノを狙ってる。マデューカスは証人として重要だ。シカゴの警官くずれなんかに大事な証人を渡すわけにはいかん。わかったか」

 ジャックを威嚇するのは、強面の捜査官アロンゾ・モーズリ。捜査員はみなサングラスで顔を隠している。

「ひとつ教えてほしいんだが……、決まってるな、そのサングラス。みんなして同じ店で買うのかい?」

 そしてジャックは自分もサングラスを取り出してかけ、車内のFBIたちと見比べる。
「私の言っていることがわかってないようだな」

 モーズリは、ジャックのサングラスをはずして取り上げる。そして部下に、ジャックを放り出せと命じるのだ。

「あ、おい。俺のサングラスを返してくれ」

 モーズリは嫌がらせたっぷりにサングラスを宙高く投げ上げるのだ。

「ありがとうよ、返してくれて……、ついでに、これもな」

 走り去ったFBIの車に掲げてみせるのは、モーズリのコートから抜き取った捜査員の身分証だ。歩き出した途端にぱっと振り返り、その身分証を提示するポーズを決めたりするのは、どことなく「タクシードライバー」のセルフパロディのようでもある。

 ジャックは、デュークが潜伏しているとみられるニューヨークに飛ぶ。空港でレンタカーの手続きをしているところを、今度はマフィアの“使い”に声をかけられるのだ。ジャックの動きは、FBIにもマフィアにも筒抜けなのだ。

「あんたがウォルシュか?」
「そういうお前たちは誰だ」
「話があるんだ。金になる話だ。俺たちのボスがきみを高く買っていてな」
「誰だろうな、そんなやつは」
「古い友だちだよ、シカゴのな。もっとも、シカゴの頃は協力してくれなかったらしいが。あんたはデュークを捕まえに来たんだろう」
「よく知ってるじゃないか」
「今度はどうだ。俺たちに協力してくれたら保釈金より余計に出すぞ」

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著者プロフィール

降旗 学(ふりはた・まなぶ) 

ノンフィクションライター。1964年、新潟県生まれ。神奈川大学法学部卒。英国アストン大学留学。96年、第3回小学館ノンフィクション賞・優秀賞を受賞。主な著書に『残酷な楽園』『敵手』『松坂大輔 証明』他、剣崎学のペンネームで書いた『都銀暗黒回廊』など。
近著は『草野球をとことん楽しむ』(新潮新書)。 本ウェブ連載「長目飛耳」をまとめた『世界は仕事で満ちている』(日経BP社)



このコラムについて

シネマde青春

趣味は楽しむから趣味なのだ。映画もまた、楽しんで観るから娯楽なのだ。たくさん観ているからといって偉いわけじゃない。要は、楽しめたかだ。それがいちばん正しい映画の見方だと私は思っている。・・・それでも、映画を観るたびに考えさせられることや勝手に学んだつもりになることは多々あって、何年経っても忘れられない場面もあれば、解釈の仕方ひとつで何気ない台詞に影響を受けたり、その台詞を借りて自分を励ましたり勇気づけたこともある。だから映画は面白いのかもしれない。そうした場面や台詞を拾い上げながら、私なりに感じたことを徒然に、道草を食いながら綴っていこうと思う。

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