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世の中には暴かないほうがいいウソもある~『人間はウソをつく動物である』
伊野上 裕伸著(評者:朝山 実)

中公新書ラクレ、760円(税別)

2009年5月12日(火)

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評者の読了時間4時間30分

人間はウソをつく動物である──保険調査員の事件簿』 伊野上 裕伸著、中公新書ラクレ、760円(税別)

「なぁ、聞いてくれる?」

 ある友人が電話口でこんなことをぼやいていた。

 遠縁の親戚が亡くなったという知らせがあった。名前を告げられても、顔が浮かばない。その程度の身内だという。身体に軽度の障害があり、50代独身、生活保護を支給されて公団アパートでひとり暮らしをしていた。

 さびしい人生のようだが、部屋を整理してみると、几帳面なのだろう、輪ゴムでとめた競輪のハズレ車券がひきだしにしまってあり、女性と並んで指をワイの字に立てた写真がでてきた。

 サイン色紙や、女性の写ったCDが何枚もあったことなどから、追っかけをしていた様子。さらに、残高400万円あまりの預金通帳も出てきた。

 立会いの市の職員に、「これ、どうしましょう?」と通帳を見せると、「あの、わたし、今月いっぱいで異動なんです。見なかったことにしておいてください」。

 職員さんは、大画面のテレビを見たときから、まいったなぁという顔をしていたそうだ。生活保護を支給される身で、まとまった貯金があるというのはまずいらしい。

「でな、裁判所に電話したら、下ろすには面倒な手続きが必要になりますよ。そのままほうっておかれたらどうですか、と言うんや」

 友人の声は憮然としている。10年だかの長期間、放置したままの預金は銀行のものとなるらしい。それも釈然としないが、金額を口にしたときに、一瞬ハナで笑われたのが気にくわないのだという。しきりに「納得いかんわぁ」と繰り返していた。

 さて。著者は、30年にわたって、興信所や損害保険の調査員、つまり人を疑う仕事をしてきた。担当した案件は1万件。10年前に退職したものの、いまでもその気になれば、どんなことでも調べあげる自信があるという。

白黒はっきりさせてはダメ

 なんていわれるとコワモテな人物を思い浮かべがちだが、本書を読むと調査員の日々の仕事は忍耐を要する、地味なものだとわかる。似たものとして探偵や刑事があるが、いちばんのちがいは、白黒をはっきりさせないと気が収まらない人は向かないことだ。

〈調査においては100パーセントの真相解明を目指さないことです。不正の根拠を八割方押さえ、相手が観念したと察しがついた段階で手をひくべきです〉

 というのも、保険会社から依頼があるのは、保険金の詐取が考えられる場合に限る。「お客さん」のためを思うなら、余計なお金は払わないですむよう、不正を摘発する。それが有能な調査員というものだろうが、たんにウソを暴けばいいというものでもないらしい。

 ある地方都市のスーパーで、売上金300万円余りが盗難にあった。

 そのスーパーの重役は、従業員に「警察に知らせるな」「損害保険会社へ連絡しろ」と指示した。ヘタに騒げば商売に支障を来しかねないし、なにより身内から犯人がでることを恐れてのことだった。

 支社から連絡を受けた保険会社の本社は、警察の盗難証明なしに、保険金の支払いはできないと判断。著者におはちが回ってきた。

 著者は、『火の壁』などを著したミステリー作家でもあり、短編小説の一場面のように、臨場感のあるやりとりを紹介している。

 スーパーを訪れた当初から、重役は不快感をあらわにしていた。調査? オレのいうことが信用できんのか。だったら今後のつきあいはごめんこうむる。威嚇され、同伴した保険会社の支社長はすっかり及び腰だ。

 そのスーパーが契約している火災保険や自動車保険、従業員の傷害保険などをひっくるめると年間、数百万円。地方支社としては、重要な顧客だった。

 一人ひとり従業員を呼んで、疑問点をつぶそうとするたび、重役は不機嫌になる。

 金庫の鍵の管理は万全だし、閉め忘れなどありえないと、重役は取り付く島がない。しかし、質問するうち従業員の証言に、食い違いが生じはじめる。

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