「おたがいさまの店選び」

おたがいさまの店選び

2009年5月13日(水)

無理やり子供を入れようとするお客

【店に悪い客・ケース02】

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 前回は、たくさんの方々から賛否両論の貴重な御意見を頂き、まことにありがとうございました。

 この連載の視点は、「双方向の見方がある」ということです。

 車を運転される方ならばお分かりになるでしょう。運転している時に歩行者に対して持つ感情と、歩行者として歩いている場合に、車側に対して持つ感情は正反対ではないでしょうか。同一人物でもその置かれた立場と状況で、まったく逆の見方をするものです。そして、どちらの意見が正解ということもありません。

 これと同様に、お店とお客の双方の言い分を知ることで、相互理解が生まれ、お店とお客の永い付き合いが生まれると私は考えています。

 日経BP社には、「日経レストラン」という雑誌もありますが、もしも私がそのフィールドでこの連載を始めたとしたら、当然ながら飲食業界誌ですので、お店の視点からの意見がほとんどになる、と想像できます。店と客、両方の視点でお話しするために、この場所にさせていただいてよかった、と第一回の皆様からの反響を受けて思います。

 運転者は歩行者の視点になって、歩行者は運転者の視点になってみるための手がかりとして、お読み頂ければと思います。

*    *    *    *

 今回は、パブリック・スペースとしてのお店の雰囲気、空気感を、土足でズカズカと上がり込んで台無しにしてしまう最悪のお客、無理やり子供を入店させようとするお客さんの話です。

 ここでもうすでに腹立たしくなられている方々に一言。本連載で扱う「お店」は、特にお断りしないかぎり、大人が自腹で一人で、もしくは気の置けない友人と酒と料理を愉しむために足を向ける、自分にとってかけがえのない魅力を湛えた個人経営のお店のことです。

「保護者同伴だから、文句ないでしょ!」

 まず、このテのお客の思考には、「お店の雰囲気は、お客さん全員のもの」という認識が根底から欠落しているのが特徴です。

 店側がやんわりと子供連れの入店を断ると、こんな屁理屈を言い出します。「うちの子はおとなしいから大丈夫」と。「お酒を飲む場所ですから」と店側が再度断ると、今度は「保護者同伴だからいいでしょ」と、なにがなんでも入ろうと企てます。カウンター主体の焼鳥屋さん、お鮨屋さんといったお店であっても。

 ファミリーユースという観点で営業している焼鳥屋さん、お鮨屋さんもありますから、店側がOKで、お客さんのほとんどが幼い子供も含めた家族連れであれば何も問題はありません。つまり、これも「お店の雰囲気はお客さん全員のもの」という観点でみれば、子供が騒ごうが、走り回ろうが、そういったお店だと解って入っている以上従うべきです。逆に細かくうるさいことを言うお客のほうが問題です。

 が、しかし、メニューがない、品書きに値段が記されていない、単価が高い、といったそれなりのお店に来ているお客さんは、料理とお酒はいうに及ばず、場の雰囲気を愉しみに来店しているのです。

 このテの店では、ハッキリ言って、子供の存在自体が目障りです。大人が自分の大切なひと時を愉しんでいる場に、子供がいること自体酒がまずくなります。いや、この言い方は正確ではありませんでした。子供自体にはなんの罪も、責任もないのです。そういった他のお客の気持ちをまったく理解しない見識のない親の存在こそが、実は不愉快なのです。ところがこういった自分勝手な親は、なぜか玄人好みの渋い酒処にも、たちが悪いことに興味を持ちます。「雰囲気良さそうだから入ってみようよ」と、子連れで扉を開けるのです。

 店内には、永い関係を礎に亭主とお客との間で培われた無言のしきたりがあることなどお構いなしで、常連客のなごんだ心を逆撫でするのです。子供連れであれば、食事主体のお店に行けばいいものを、お酒が置いてある雰囲気の良い店で愉しみたい、という自分たちのわがままを押し通す。結果、そのあおりを受けて他のお客さんは大迷惑。

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著者プロフィール

吉野 信吾(よしの・しんご)

 1958年生まれ。雑誌「POPEYE」の編集者を経て、商業施設や飲食店舗の設計プロデュースを数多く手がける。店舗の投資計画から設計、メニュー開発、プロモーション計画と実施、また運営、経営までの一貫した業務経験が豊富で、自らの多彩なマスコミネットワークを駆使したプロモーションに定評がある。現存する店舗としては」150坪の日本最大のメキシカンレストラン、原宿「ラ・フォンダ・デ・ラ・マドゥルガーダ、400種類のテキーラを誇る50坪のテキーラ専門バー、六本木「アガベ」、昭和レトロ、住宅酒場の火付け役となった麻布十番「ラッキー酒場」など。「広報会議」に「小さなお店の広報術」を連載執筆中。マガジンハウス『もったいない』、日経BP『流行る店』、祥伝社『金欠力』、その他、著書多数。

ロドリゲス 井之介(ろどりげす・いのすけ)

 大学在学中に小学館ヤングサンデーにてデビュー。代表作はテレビドラマにもなった『独身3』、『係長ブルース』など。現在は小学館ビックコミックスペリオールにて、『世界の中心でくだをまく(仮)』ケータイまんが王国にて、『熟恋(うれこい)』などを連載中。


このコラムについて

おたがいさまの店選び

 野球やアメリカン・フットボールでも、攻撃が終了すると、それまで攻撃していた側が、一転して防御に回ります。互いに攻守につくことによって、ゲームが成り立つばかりでなく、お互いの難しさを知るとも言えます。
 本コラムは、まさにこれと同様で、これまでお客の意見、グルメライターのコメント、店の格付け、といった利用する側の目線で一方的にやられっぱなしだった店側に、今度は少しばかり攻撃の順番が回ってきたとお考えください。「お客さんに立場があるのであれば、お店の立場というものもあるんです」というわけです。
 お客自身も、お店の言い分や理屈を理解することで、これまで以上の良い関係を築くことができるのではないでしょうか。また、お店にも「客に良い店とは? 悪い店とは?」を、これまで以上に知っていただくことで、互いの理屈と立場に歩み寄ることが可能になるのではないでしょうか。そうすることで「店に良い客 客に良い店」という末永い関係ができるわけです。
 長年マスメディアに関わり続け、店舗の設計、プロデュース、メニュー開発、経営という実際に両者の立場を経験してきた私にとって、それぞれの言い分が理解できるからこそ、本コラムはお客の立場である読者の皆さんの役に必ず立つと信じています。

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