「カラダを言葉で科学する」

東大生と学ぶ“運動音痴”の治し方

最先端科学で知る運動と脳−−柳原大・東京大学大学院情報学環・准教授(前編)

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2009年5月13日(水)

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 ゴルフのスイングや野球のバッティングをはじめ、スポーツにはさまざまな理論、流行のフォームがある。しかし、運動が苦手な人がそれらを真似してみても、必らず上達するとは限らない。

 一方で、苦もなく上達する人もいる。努力しても向上しないのはなぜなのか。

「筋力が足りない」「親も運動が苦手だったからきっと遺伝が原因だ」「反射神経が鈍いからしかたない」……これでは、あまり納得できない。

 「運動音痴の原因はどこにあるのか」という素朴な疑問。この答えを探す講義が東大で評判だ。レクチャーは東京大学大学院情報学環の柳原大さん。最近の神経科学の知見から、脳はどのように運動を学習し、記憶しているのかを解きほぐすという。カラダの話をアタマで納得できるのか、さっそくお話を伺ってみよう。

*   *   *   *

柳原大(やなぎはら・だい)

 1964年東京生まれ。大阪大学・助手、理化学研究所脳科学総合研究センター・研究員、豊橋技術科学大学・助教授を経て、現在、東京大学大学院情報学環・准教授。東京大学教養学部では「身体運動・健康科学実習」として主にテニスの実技を、また講義では「身体運動科学」「適応生命科学」などを担当している。専門は運動生理学、神経科学で、運動の制御、学習・記憶について遺伝子レベルから個体レベルまで対応付けながら研究している。

−−柳原さんは、学生たちの講義の評判から学園祭などでも公開講座を依頼されているそうですね。

柳原:ええ。テーマは「運動音痴」です。私の研究領域である脳科学や神経生理学の観点から、運動スキルや運動音痴の正体がどれだけ分かっているかを講義しました。

−−授業や学園祭での受講者の反応はいかがですか?

柳原:運動制御の機能が、筋肉や体がどうかといったハードの部分でなく、分子のレベルでこんなに分かってきたのかということに対しては、学生も学園祭の受講生たちも一様に驚いているようですね。

筋力だけでは運動スキルは向上しない

−−スポーツを通じ、体を動かすことの大切さは、誰もが知っていますが、どうせ運動するなら上手になりたいものです。けれども、努力をしてもなかなか上達しない人もいます。運動音痴という現象はなぜ起きるのでしょうか?

柳原:運動音痴を説明するには、まず反対側の“巧みな動き”から説明するのがいいと思います。巧みな動きをもたらすものを「運動スキル」といいます。ここでいうスキルとは「熟練した技術、手練、上手」といった意味です。

 巧みな動きの例を挙げるとすれば、少し古いですが、荒川静香さんのイナバウアー。氷上で上半身を反らせた姿勢をとるだけでも難しい。しかも氷上で滑走しながら、彼女は同じ姿勢を安定的に維持することができます。

 また、バトミントンの選手はシャトルを打つ際、上腕の上腕二頭筋が活動した直後に、反対側の上腕三頭筋が活動し、打ち終わったとき、筋活動はほぼ同時に終わっています。これも素早い巧みな動きと言えます。

 いっぽう、未熟な人はシャトルを打ってからも上腕三頭筋の活動が続いている。つまり、肘が伸びきらずだらだらと動いており、間延びした動作になっています。

 見た目にも、熟練者は間髪入れずに動き、筋活動も瞬間ごとに切り替わっていますが、未熟練者はメリハリのない動きになっています。

−−小手先のスピードが速くても、切り替えが遅いと、全体として間延びした動きになるわけですか。となると、単に筋力を鍛えればいいわけではなさそうですね。

柳原:一般的に運動上手になるには、強い筋肉や丈夫な骨格だけをもてばいいと考えがちです。しかし、動作に必要のない筋肉を無駄につけても、四肢を素早く的確に動かしたり、「泳ぐ」という動作で水の抵抗を最小限にしたりするときは、むしろマイナスに作用することがあります。

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著者プロフィール

尹雄大(ゆん・うんで)

ライター。1970年、神戸生まれ。「AERA」や「Number」などで執筆。〈考える高校生のためのサイト mammotv〉でインタビュアーを務める。著書に『FLOW 韓氏意拳の哲学』(冬弓舎)



このコラムについて

カラダを言葉で科学する

自分そのものともいえる「カラダ」とどう付き合っていけば快適な仕事生活を送れるのだろうか。様々な専門領域で活躍している研究者・エキスパートに、「ビジネスの日常にプラスとなるカラダの知恵」を授かるコラム。仕事のスキルアップはカラダを知ることから。

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