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「努力が足らない」だと?~『排除の空気に唾を吐け』
雨宮 処凛著(評者:山岡 淳一郎)

講談社現代新書、720円(税別)

  • 山岡 淳一郎

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2009年5月15日(金)

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排除の空気に唾を吐け』 雨宮 処凛著、講談社現代新書、720円(税別)

 たとえば、派遣切りに合った若者に「きみは努力したのか」「もっと能力を磨け」と説教を垂れるオヤジがいる。シングルマザーが幼い子を抱えて働けど働けど貧しさから脱け出せず、生活保護を申請すると「あなたと同じ境遇でもガンバッテル人がいるじゃないの」「家族に助けてもらいなさい」と追い返す福祉事務所の職員がいる。

 わたし自身、このような「もっともらしい」台詞を口にしたことがないと言えば嘘になる。だが、本書を手にとって、「もっともらしい」反応が、どれだけ貧困の構造を見えなくするか、また貧困を食い物にするシステムを蔓延させているかを再認識させられた。ワーキングプアを「本人のせい」と決めつけ、公共の問題から排除し続ければ、社会は間違いなく崩れていく。

 本書は、その排除の空気に強烈な「ノー」を突きつけた闘争の書として読める。

〈よくフリーターに説教するオヤジなどがいるが、そういう人の前では、バブル期の就職内定率と〇三年度の就職内定率が三〇パーセントも違うことなどは「なかった」ことになる。私たちは、「年長者の承認欲求」=意味のない説教などに付き合う必要はない。それは時として、私たちの命さえ脅かすのだから〉

 著者は、〈「秋葉原無差別殺人事件」と派遣労働〉から書き起こしていく。

 2008年6月8日、静岡からトラックで東京・秋葉原に乗りつけた25歳(当時)の加藤智大は、3人を轢いたあとにナイフを振り回して無差別に人を刺し、7人を殺した。この犯罪自体、絶対に許されるものではないし、わたしは加藤被告を擁護するつもりもない。

 ただ犯行の裏にはワーキングプアが置かれた過酷な状況があったのも事実のようだ。加藤被告は、人材派遣大手の日研総業からトヨタ系自動車工場に派遣された労働者だった。

 日研総業は加藤被告の月収は30万円前後で「お金に困っている様子はなかった」としているそうだが、著者は、諸条件を勘案して彼の月収を「二〇万円程度」と推察。

〈そこから更に光熱費、保険料や税金などを引かれれば、手元に残るのは一〇万円台前半ではないだろうか。なんのことはない。彼もまた、製造派遣で働く典型的な「ワーキングプア」だったわけである〉

 派遣会社の多くは、募集広告で月収25~30万円を掲げながら、現実にはその半分程度の収入にしかならないという。そこから食費や諸々の生活雑費を支出。工場は地方に立地するケースが多いのでクルマやバイクも必要となり、その維持費やガソリン代もかかる。生活はギリギリだ。

ワープアの敵はどこにいるのか?

 著者は、派遣労働における給料からの天引きのしくみ、クビを切られると土地勘がなくネットカフェ難民やホームレスへ転落するパターン、職場での差別の数々、過重労働で自殺した例などを丁寧に紹介する。

 くり返すが、だからといって凶悪な犯行が許されるわけではない。まっとうに生きているほとんどすべての派遣労働者にとっては、犯人と同一視されるなど耐え難いことだろう。ただ加藤被告が「勝ち組は死んでしまえ」「ものすごい不安とか、おまえらにはわからないだろうな」とネットの掲示板に書き込んでいた頃、著者のもとにも次のようなメールが若者たちから寄せられていたという。

〈こんなにバカにされるなら、戦争でも起きてほしい〉
〈みんな殺してやりたい。でもボクが死んだほうがいいんですよね〉
〈通り魔になって最後にたくさん人を殺したい〉

 ここには「テロリズム」の匂いが漂っている。暴力で支配構造を転換させたい欲求が、メールに色濃くにじむ。その刃は、いつ誰に向けられるか分からない。貧困問題を排除しつづければ、社会が崩れる。その端緒がここに顕れているとわたしは思う。

 著者は、犯人についてこう記す。

〈彼は明らかにトラックで突っ込む場所を、そしてダガーナイフを振り回す相手を間違っている。(中略)彼が殺した中に、彼を苦しめるシステムを作り出した人はいない。敵はそこにいないのだ〉

 では、敵はどこにいるのか? 苦しみのシステムを変えるにはどうすればいいのか?

 著者は、「ワーキングプアの逆襲」として非正規労働者たちが立ち上がった「労働/生存運動」の最新動向をリポートする。

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