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29. 憂鬱な出勤日、営業マンは虫になる。

フランツ・カフカ『変身』

  • 千野 帽子

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2009年5月13日(水)

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 日直のボウシータです。

 さて、今週も「負の癒し」の時間がやってまいりました。4月1日に始まった「4月病文学入門」も終わって、ふたたび「働く大人」の文学ガイドを再開します。

 ゴールデンウィークが終わった。仕事が好きで好きでしょうがない、という人でもなければ、休み明けの朝というのは厭なものだ。起きていきなり憂鬱だ。ブルーマンデー(月曜病)という言葉もある。4月病のつぎは月曜病か、と、書いている私も少々ブルーになっている。

 今年のゴールデンウィーク明けは一般に木曜だったから、週末まではさほど遠くなかったのだが、それでも業種によっては、週末こそ大いに働かされるものもある。そのような業種のみなさんにも、心からご同情申し上げる。私の職場も、土曜・日曜・祝日に出勤することが少なくない。そもそも私の今年のゴールデンウィークは、いきなり昭和の日の祝日出勤からスタートしたのである。昭和天皇に合わせる顔がない。もともとないか。

 休み明けに限らず、出勤日の朝は気が重い、という向きは多いだろう。ある小説で、外回りのセールスマンである主人公は、朝、ベッドのなかでくすぶったまま、次のような感慨を漏らすのである。

「まったくなあ」と思った。「どうしてこんなにしんどい職業、選んでしまったのか。あけてもくれても出張だ。オフィスでやる仕事より、ずっと苦労する。おまけに出張には面倒がつきものだ。列車の乗り継ぎが心配になる。飯はまずくて不規則だ。いろんな人と会うことになるが、長くつき合うこともないし、心を通わせることもない。くそっ、こんな生活、うんざりだ」。〔…〕

 そして、チェストのうえでチクタク音をたてている目覚まし時計に目をやった。「な、なんだっ、これは」。6時30分だった。針は平然と進んでいる。30分も過ぎて、もう45分に近づいている。目覚ましは鳴らなかったのだろうか。ベッドから見たところ、ちゃんと4時にセットされている。たしかに鳴ったのだ。しかし、家具をふるわすベルの音にも気づかず、安眠していたのだろうか。〔丘澤静也訳〕

早起きをしなければならない仕事のうんざり感、外回りの憂鬱、そういったブルーな要素がきわめてリアルに吐露されている。雇われてどこかに行かなければならない人なら、だれでも大なり小なりこういう愚痴をこぼしたことがあるに違いない。これはなにからなにまで、そっくりそのまま私たち全員の心のつぶやきなのである。

 ただ一点、このセールスマン、グレーゴル・ザムザが、すでに巨大な虫に変身してしまっているところを除いては。

*   *   *

変身/掟の前で』カフカ 著、丘沢静也 訳、光文社古典新訳文庫、440円(税込)

 当時、ハプスブルク家が支配するオーストリア・ハンガリー帝国の一部だったチェコの都プラハに住んで、ドイツ語で執筆活動をしていたユダヤ系の小説家フランツ・カフカは、1915年に中篇小説『変身』(『変身/掟の前で 他2編』所収)を発表した。

 カフカが20世紀の文学を代表する小説家のひとりであることに、ほとんどの人は異論を持たないだろう。しかしこの作家は、ペン一本で生活する専業作家ではなかった。プラハの労働者傷害保険協会で働いていた。外回りではなく、〈オフィスでやる仕事〉である。勤務時間は午前8時から午後2時までだったというから、早く帰れて羨ましい。

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