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アラブ系移民&貧困層「和平なんて許さないよ!」~『イスラエル』
臼杵 陽著(評者:尹 雄大)

岩波新書、780円(税別)

2009年5月19日(火)

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評者の読了時間10時間00分

イスラエル』 臼杵 陽著、岩波新書、780円(税別)

 日本のメディアで多用される「自爆テロ」は、パレスチナ人の認識では「スーサイド・アタック」に他ならないことを知ったとき、彼らの絶望の深さに気付かされた。子どもまでが闘争に加わり、イスラエル兵に投石を行う姿をモニター越しに見たとき、断ちがたい憎しみの連鎖を知った。

 同時に、イスラエルに兵役拒否をする若者が現れたこと。さらに、占領地で殺されているパレスチナ人と同じアラブ系住民がイスラエル国民の2割を占めることを知ったとき、マイノリティの複雑な胸中に思いを致した。

 ユダヤ対パレスチナの対立関係は、まさしく「壁と卵」であるが、本書を読んでわかったのは、イスラエル国内の状況は、外から見るほど一様ではないということだ。著者はいう。

〈イスラエル社会に広く浸透しているパレスチナ人への強硬論を主張する人びとの心情を彼らの理屈を通して理解しなければ、イスラエルを本当に知ったことにならないのではないか〉

 本書は、パレスチナ人を「一方的にテロリストと決めつけ、テロリスト殲滅のために暴力行使も辞さない」イスラエルという国家の意志がどのように成立したかを明らかにしようとする。

 1993年9月13日、オスロ合意締結の調印式において、PLO(パレスチナ解放機構)のアラファト議長とイスラエルのラビン首相とが握手を交わす姿に、世界は中東和平の前進を確信した。オスロ合意とは、〈PLOがイスラエルを承認することで、イスラエルは占領しているヨルダン川西岸・ガザを自治領として返還〉するというもので、いわば「領土と和平の交換」であった。

 イスラエルが4度の中東戦争で獲得した領土を和平と引き替えにしようとしたのはなぜか。冷戦終了により「共産主義に対する橋頭堡という役割を失ったイスラエル」が敵対していたPLOを承認し、和平交渉の対手としたほうが、自国の益になると判断したからだ。

 だが2年後、ラビンは和平に反対する極右の超正統派ユダヤ教徒により暗殺された。アラファトもまたオスロ合意の破綻とイスラエルの敵視政策のなか、2004年にフランスで客死した。

ユダヤ教の聖地はユダヤ人のものだ

 政治的求心力を失っていたアラファトと比べたとき、ラビンの死は、狂信者による暗殺事件で済まされない重さがあった。ラビンは第3次中東戦争時、参謀総長として指揮にあたり、6日間でイスラエルの占領地を戦前の4倍以上に拡大させた。

 いわばラビンは、〈現実主義的な政策とそれを実行する辣腕ぶりが国民の信頼を勝ち得て高く評価されていた〉

 オスロ合意は、ラビンにとって大局を遠謀しての現実的判断だったが、実行犯の考えでは、神から与えられた土地を「非ユダヤ教徒に売り渡した」ものにほかならなかった。しかも犯人の行為を正当化したのは、急進的なラビ(ユダヤ教の宗教指導者)の「世俗的権力者=背教者」という解釈だった。

 ラビンとてユダヤ教徒であるが、彼の世俗的判断がなにゆえ「背信行為」になるのか。評者はここにイスラエル社会の和平と治安をめぐる混迷が表れていると思うが、著者は、その混迷を世俗・宗教・民族の要素の絡まりとして分析する。

 まず世俗とは何か。イスラエルはシオニズムの思想に基づき建国された。シオニズムとは、世界に離散したユダヤ人に「シオンの丘」(エルサレムの雅称)への帰還を促す運動だ。

 シオニズムは19世紀末、ヨーロッパに吹き荒れた「ユダヤ人への差別・迫害を伴う反ユダヤ主義の激化に対する解決案」として生まれた。世俗的な近代国家を立ち上げ、そこに集うことでユダヤ民族は正常に復するという考えだ。

 イスラエルは1948年5月14日、独立。独立宣言は「イスラエル国はユダヤ人移民と離散民に開かれるであろう」と謳う一方、「宗教、人種、あるいは性による区別なく、すべての市民の社会的政治的諸権利の完全な平等を保証する」としている。

 つまり「ユダヤ国家」であるが「民主国家」でもあり、「宗教と国家の分離を建前」とした。

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