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「リーダー」になりたいやつなんかに投票したくない

2009年5月18日(月)

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 鳩山さんは、高校の先輩だ。
 小沢さんと同じ。

 で、ちょっと応援している。陰ながら。
 困った因縁だ。
 本来なら、この種の縁で政治家を応援することは、怪しからぬ話なのかもしれない。
 もっと言えば、「母校が同じだから」みたいな支持の仕方は、癒着なのだ。

 でなくても、「地元だから」「ご近所だから」「同窓だから」「祖父さんの代からの縁だから」「奥さんが親戚の会社の同僚の知り合いだから」……みたいな、政策やリーダーシップと無縁な理由で政治家を支援するのは、現代的な態度ではない。民主的でも市民的でもない。非常に田舎くさいマナーだ。

 その種の「親近感」が、世襲議員を生み、前例踏襲の人事を育み、義理にからんだ選挙運動を展開させ、利権誘導型の地盤政治の温床になっている。

 とはいえ、親近感は親近感だ。

 感情は、当たり前の話だが、理性的なものではない。理屈では間違っていることがわかっていても、われわれの親近感は、より近い人間をより大切に扱おうとする。えこひいき。身びいき。身内大事。政治理論が21世紀仕様に進化していても、わたくしどもの政治風土は20世紀型のムラ社会モデルから脱却していない。オラがムラの先生。ドン・コルレオーネ。どうにもならない。

*   *   *

 自転車で都心方面に出る時、私は鳩山邸の崖下を伝う細い路地を走ることにしている。

 路地は、お茶の水女子大、筑波大附属中高、旧鳩山邸が並ぶ大塚および小日向のお屋敷町と、講談社の裏手に広がる目白台、関口の台地に挟まれた音羽の谷筋を縫うように走っている。より詳しく述べると、護国寺から講談社の門前を抜けて江戸川橋に至る幹線道路から一本東側に入った、自転車同士がかろうじてすれ違えるほどの隘路だ。23区内に残された、奇跡的な路地と言って良い。自動車は来ない。人通りも少ない。静けさが四囲を支配し、斜面を渡る風が頬を撫でていく。左右には四季折々の花や若葉があり、頭上を見上げると、崖の上の木々の葉に区切られた青空が、川のように流れている。茗荷谷という地名が、実感を伴って感じられる素晴らしい立地だ。

 その鳩山道(はとやまみち:←と勝手に名付けている)を走る人間は、いつしか、鳩山一族の歴史を思い浮かべている。若干の脚色を孕んだオラが町のセンセイの物語。華麗で優秀で上品で奥ゆかしい人々の来歴と人柄についての、ほとんど神話化したエピソードを、だ。

 と、銀輪の進む道の先には、鳩山会館の壮麗な建築が姿をあらわす。坂道の頂上にそびえるその威容。資産と血脈と学歴と地位のすべてを備え持った人々を育んだ庭の緑。抵抗不能だね。下町育ちの人間には。

 ん? 

 元来、私は、優雅な血統だとか、やんごとなき家柄みたいなものには冷淡なはずなのだが。

 名門の御曹司が、財閥の家に連なる美貌の妻を得て、またしても優秀な子弟を遺しましたとさみたいな調子の物語を、私は、憎んでいたはずだ。貴公子だとか、深層の令嬢だとか、貴顕だとか雲上人だとかを。なーにをいってやがるんだ、と。

 無論、嫌悪している。
 私は家柄自慢やブルーブラッドみたいなお話が大嫌いだ。

 ところが、実際に幾人か知っているお坊ちゃま本人について、私がどう思っているのかというと、実は、案外に、好きだったりする。

 そう。感じが良いからね。あのヒトたちは。鷹揚だし、ガツガツしてないし、それになんだか余裕があるから。

 かように、原則論と個別論は、必ずしも一致しない。

 たとえば、一般論としては学歴主義に反発を抱き、偏差値教育に疑問を持っている同じ一人の男が、自分の息子が大学を受験するという段になると、鬼みたいに尻を叩いていたりする。よくある話だ。拝金主義は良くないと思っていても、カネは欲しい、みたいな。

 だから私も、地元のスーパー家柄エリートである鳩山一族には点が甘い。
 鳩山邦夫先生の奥さんは、私の兄と同年齢で、しかも隣町の出身だった。

 美少女アイドルの走りみたいな存在だった彼女は、私が小学校の頃に通っていた隣町の書道教室のすぐ近くに住んでいた。私は、その書道の先生のお宅に通う道すがら、もしかしたらばったり出くわすんじゃないかと思って、あたりを見回して緊張していたりした。書道教室は2カ月で辞めたけど。例によって。まるで面白くなかったから。

 何の話をしているのかというと、近くに住んでいる政治家には、なにかと縁が生じるものだ、ということだ。東京みたいな茫漠とした大都会でさえこうなのだから、いわんや田舎においておや、だ。

 おそらく、読者の皆さんも、生まれた町の地元の代議士先生とは、色々な糸でつながっているはずだ。地縁、血縁、学閥、商売……まったく無縁な地元議員なんて、もしかしたら居ないんではなかろうか。とすると、世襲云々をどうこう言う以前に、選挙区自体がまるごとムジナのアナなのであって、結局、われわれは、義理と人情から外に出られない政治的小作農なのかもしれない。

 高校の同窓がどうのこうのといった事情を除けても、人物として、鳩山さんには、好感を持っている。特に、正直で裏表のない不器用さに。兄弟ともども。

 ただ、政治家として評価しているのかというと話は別だ。
 鳩山さんは、おそらく、たいした仕事のできる人ではない。

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「小田嶋隆の「ア・ピース・オブ・警句」 ~世間に転がる意味不明」のバックナンバー

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「「リーダー」になりたいやつなんかに投票したくない」の著者

小田嶋 隆

小田嶋 隆(おだじま・たかし)

コラムニスト

1956年生まれ。東京・赤羽出身。早稲田大学卒業後、食品メーカーに入社。1年ほどで退社後、紆余曲折を経てテクニカルライターとなり、現在はひきこもり系コラムニストとして活躍中。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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