いつしか音楽を聴かなくなってしまったビジネスパーソンに贈る本コラム。カバー曲を集めたコンピレーションアルバム『コトノハ』『コトノハ2』を手がけた、元野村証券トップアナリストの佐藤明さんに、最新のお薦めを紹介していただきます(詳細は、元野村のトップアナリストが掘り出したお宝銘柄…ならぬ「名曲」)。
戸田(以下、――): 5月2日、忌野清志郎が亡くなりました。佐藤さんはかなり思い入れがあるようで、今回は特別編ですね。
ジョン・レノン「イマジン」、ローリング・ストーンズ「黒くぬれ!」、エルヴィス・プレスリー「ラヴ・ミー・テンダー」などの洋楽をカバー。当初、忌野清志郎の訳詞内容に反発した所属レコード会社が発売を見送るといった出来事もあった。
佐藤明: 実は昨年11月、ブルーノート東京で清志郎を観ました。ソウルミュージックの大御所であるブッカーT&MG'sの来日公演に、サプライズゲストとして登場したのです。場内は騒然としていましたね。あれが、ラストライブになってしまった・・・。
清志郎の歌には、「伝えたい気持ち」を強く感じます。日本人歌手が洋楽をカバーする場合、ほとんどの歌手が英語のままで歌います。でも、清志郎は日本語にこだわる。
RCサクセションの「カバーズ」というアルバムが好例でしょう。洋楽のスタンダードナンバーに、清志郎が日本語の訳詞をつけています。例えば、カバーズに収録されているジョン・レノンの「イマジン」。英語で聞く以上に、生々しく、心に刺さります。
伝える言葉を考え抜く
今、私は企業コンサルティングを手がけていますが、清志郎が強烈に持っていた「伝えたい気持ち」は、経営者も見習うべきだと思います。会社の理念や考えを、相手に響く言葉や手段で平易に伝えていく。米国の経営手法を深く考えずに受け入れて、英語の横文字を並べて分かった気になっている。残念ながら、こんなケースも少なくありません。
例えば、「エコ」「コンプライアンス」「CSR(企業の社会的責任)」「WIN-WIN」といった流行りの経営用語。何の気なしに使っていませんか。
それぞれ「もったいない」「企業倫理」「社会の公器」「三方よし」と、日本語に言い換えてみる。「三方よし」というのは、江戸時代の近江商人の考え方です。英語にすれば「WIN-WIN-WIN」ですから、「WIN-WIN」よりも先に行っているのかもしれません。ちょっとした置き換えですが、私たちが過去から大事にしてきた価値観とつながり、より手触り感を覚えませんか?
もっといい言葉を思いつく人もいるでしょう。清志郎の歌を聴くと、「慣れ親しんだ言葉にすることで魂が入る」ことを再認識させられます。
幸い先の見えない厳しい経済環境の今だからこそ、経営者が自らの考えを分かりやすく社員に伝えていく必要があります。会社に魂が入っていなければ、不況に立ち向かえないでしょう。経営者はもっと言葉を大事にするべきです。
私はキヨシローのファンではなかったのですが、亡くなられて以降いろんなブログやu Tubeの映像を見てすっかり魅せられてしまいました。歌を聴くと涙が溢れ、心にどんどん響いてくるのです。今までにない経験で、なんでこんなに感動するのだろうと不思議に思ったくらいです。この記事を読んでその理由がちょっとだけ分かりました。キヨシロー賛歌になってしまい、この記事の趣旨、主旨と外れ申し訳ありません。でも他のコメントの方もそんな感じですね。(笑)(2009/05/20)