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作家の筆は、こうして走る~『松本清張を推理する』
阿刀田 高著(評者:朝山 実)

朝日新書、740円(税別)

2009年5月21日(木)

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評者の読了時間4時間30分

松本清張を推理する』 阿刀田 高著、朝日新書、740円(税別)

 なんだか書店に松本清張の本が並んでいるなぁと思ったら、ことしは生誕100年にあたるそうだ。

  “巨匠の創作の秘密に迫る”のオビコピー。清張の似顔絵に、“勝手なことを書きおって”のふきだしが付してある。

 本書は、作家が、作家の手の内を明かそうという試み。『張込み』『点と線』『砂の器』などをテキストに、清張がどのような着想で執筆にとりかかったかを解剖してみせる。

 松本清張といえば、推理小説のトップスターのように思われがちだが、それは本人が意図したものではなく、なぞを含んだ趣向のものを書き溜めたことによる、後付のレッテルだという。事実、本書でも取り上げられるように、時代小説から古代史発掘、社会派ノンフィクションまで清張の芸域は広く、推理小説作家の枠に収まりきらない。

 それはさておき、松本清張から竹中直人を思い浮かべてしまうのは、ワタシだけじゃないだろう。清張その人の風貌より、下唇をつきだした、和服姿の文豪モノマネのほうが濃く脳裏に焼きついてしまっている。

 なんのテレビだったか忘れたが、竹中直人が、本人を前にして清張ネタを披露してみせたことがあった。文豪は、笑って受け流していたように記憶している。

 いまふうにいうならリスペクトがうかがえたのと、顔面デフォルメには愛嬌が漂っていた。モノマネにいちいち目くじらたてるような人物なら、こういう小説は書かなかっただろうと思わせるのが、短編『或る「小倉日記」伝』についての論考だ。清張は、この作品で芥川賞を受賞している。

 『或る「小倉日記」伝』の概略はこうだ。

 明治・大正期の文豪、森鴎外はまめに日記をのこしていたが、軍医部長として赴任していた小倉での3年間の日記が、死後、紛失したままだった。関心を寄せた作家志望の若者が、日記の空白を埋めようと、当時を知る人たちを訪ね、聞き取りをしていく。

日記を探したのは誰?

 青年の名前は、田上耕作。実在した人物である。清張は、「田上耕作は明治四十二年、熊本で生まれた」と作品に記している。

 著者は、この1行をさして「小説の構想として“凄い”のである」という。

〈実在の田上耕作は、明治三十三年の生まれであり、生地も熊本ではない。(中略)明治四十二年は作者自身の、松本清張の生年なのである〉

 小説では、ロレツがまわらず涎をたらしていたなど身体の障害に目がいくが、実状は重度のものではなかったらしい。ほかにも、没年、きょうだいのあるなしなど、事実とは異なるところが見受けられるという。

 では、なぜ清張は、嘘をまぜたのか。

 結論を急ぐと、『或る「小倉日記」伝』は田上耕作の伝記であるかのように読めるが、清張はノンフィクションを書こうとしたわけではない。田上耕作なる、一般には知られていない郷土史家のプロフィールを拝借して、そこに自身を投影していたのだと著者は推論する。

〈清張は障害者ではなかったし、小説にあるような母一人子一人の家庭でもなかったが、その二十代においては、世に受け入れられるところが少なく、挫折感の中で無償の努力を続けることが多かった。それはまちがいない。その思いが形を変えて『在る「小倉日記」伝』の行間に漂っていることを読者は見逃してはなるまい〉

 著者はこの一文のあとに、こう書き足している。

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