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「できそこない」のためのマルクスの読み方

『資本論』カール・マルクス著

2009年6月9日(火)

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はじめに~「出来損ない」のためのブックガイド

 初めて外国を旅行するときは、誰だって24時間、緊張を強いられるだろう。
 朝、目を覚ましても、ぼんやりとしてはいられない。すぐに頭の中で、その日これからの行動を予習し始める。話すべき外国語を組み立て、起こるであろうさまざまなことを想像する。よし、これで準備は完璧だ。そう思ってから、やっとシーツをはねのけ、まるで戦いに赴くかのような覚悟で一日を始めるのである。

 ところでぼくは、どこにいても、いつもそういう感じだ。

 ものごころついたときから、まるで外国旅行中のような緊張の中で生きている。根本的に異質な時空間に投げ込まれたワケのわからなさを感じ、頼りなく、不安と苛立ちに付きまとわれている。人々が何気なく、ごく当たり前に行っていることが、ぼくには理解も実行もできないのだ。とうてい不可能に思える。

 みんなが認知しているルールを、ぼくだけが知らずにいるのだろうか。みんなと同じことをみんなと同じようにしているつもりなのに、突然警笛が鳴り、イエローカードを突きつけられる。そして、ぼくが過ちを犯したと宣告される……。

 単なる日常生活を送るだけなのに、常に心の準備をして臨まなければならない。こんなにも無駄なエネルギーと時間を費やして、それでもなお、ぼくは失敗を重ね、消耗していく。

 生きること、日々の生活を繰り返していくこと、ただそれだけのことが、ぼくにはとてもつらい。

 いや、ぼくは、特別なところなど何もない平凡な人間だ。多かれ少なかれ誰もがぼくと同じような感覚で生きているのだろう。それでも耐え、あるいは工夫して、乗り切っているのだろう。

 ぼくも、一生懸命、そうしているつもりだ。
 だが、それでもときどきダメになる。破綻してしまう。
 そんなとき、「ぼくは出来損ないだ」とつくづく思う。

 そして、声がする。オマエみたいな出来損ないは死んでしまったほうがいい、と。人の視線に感じるのか、自分の心の中から発せられるのか、それはわからない。道を歩きながら聞くことがある。入院しているベッドの中で聞くことがある。また、留置場の中で聞いたこともある……。

 しかし、ぼくは死にたくない。何もかもおしまいにしてしまうこと、それは避けたいと思う。それなのに、ぼくの中には、その声に同意してしまいそうな自分が確かにいるのである。

 同意してしまいそうな自分、「そいつ」をねじ伏せなければならない。強い感情で、気持ちの盛り上がりで、「そいつ」を圧倒しなければいけない。「そいつ」と議論し、論破して撃退しなければならない。

 社会や世界や自分や他人について、どんなふうに見て、感じて、考えれば、ぼくはこれからも生きていけるのか。「そいつ」に言い聞かせ、説得してやるのだ。

 そのとき、ぼくを助けてくれるのが「本」だ。
 「そいつ」と戦うエネルギーを与えてくれる。戦い方を教えてくれる。こんな風に言い返してやれ、と助言してくれる。

 本がなければ、ぼくは生き延びてこられなかった。
 本はぼくの大事な武器であり、ともに戦い抜いてきた盟友である。

 ぼくは本を、自分が生きるのに役立つように読む。無能で不器用で余裕がないから、それだけしかできない。

 今、ぼくは本の紹介文を書こうとしているが、ぼくの読み方には、強いバイアスがかかっている。客観性に欠けている。読みが浅い。あるいは反対に、どうでもいい細部に過剰な読み込みをしている。

「こんな大層な本を読んで、オマエは、たったそれだけしか学ぶことができないのか?」
 とあきれる人もいるはずだ。そう言われてもしょうがない。確かにぼくは、ロクな読み方をしていない。

 でも……と思う。
 そんな読み方をしないと、「このぼく」の人生には役立たないのだ。

 もしかしたら読者の中にも、ぼく同様の「出来損ない」がいるかもしれない。そして出来損ないに課せられた、日々の愚かしい戦いを、武器もなく戦っているかもしれない。

 もしそうなら、その人には、この文章は少しは役に立つだろうか。この文章をきっかけに、ぼくが紹介した本を手に取って、ぼくなんかよりももっとうまく活用してくれるとしたら……。

 そんな想像をする。勝手な妄想だ、いい気なものだ、と自分でも思う。でも、そんな妄想を信じて、ぼくは、これから書いていくつもりだ。

『資本論』を読む

 『資本論』は、ドイツ人の共産主義者カール・マルクスが資本主義社会を分析した本だ。19世紀に出版され、世界中で読まれてきた経済学の古典だ。

 『資本論』はおもしろい。『資本論』を読もう。

 全部がたいへんなら、第一部だけ。それもたいへんなら、第一編、いや第一章だけでも十分だ。
 「出来損ない」のためなら、それだけでも役に立つと言いたい。

 ここで『資本論』を読むのは、経済学を学ぶためではない。

 経済学を学ぶなら、『マルクス経済学概論』や『資本論入門』など、教科書として書かれた本を読むほうが、ずっとわかりやすいだろう。

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